ナノ構造形成・ナノ計測・ナノ機能制御の最前線

導電性高分子ナノワイヤの形成
−連鎖重合反応をナノスケールで制御する−

ナノマテリアル研究所
原子エレクトロニクスグループ
大川 祐司


 シリコンデバイスの微細化がまもなく限界を迎えようとしている現在、ナノメートル(10-9m)サイズでも動作する新しい概念のデバイスを開発することが急務となっています。しかし、たとえ個々のナノデバイスができたとしても、それらをいかにして相互に連結し、集積化するかは大きな問題です。ナノメートルサイズの幅で電気を通すナノワイヤ配線技術の開発は、次世代ナノデバイス実現のために不可欠なキーテクノロジーなのです。
 近年、私達は、有機分子の連鎖重合反応を1nm程度の空間分解能で局所的に制御する技術を開発し、わずか一分子幅(約3 nm)の導電性高分子ナノワイヤを任意の位置に任意の長さで形成することに成功しました(表紙写真上)。
 図1にその手順を示します。用いた有機分子はジアセチレン化合物と呼ばれる、炭素−炭素三重結合を二つ含む分子です。この分子をグラファイト表面に適当な方法でのせると、分子が規則正しく直線状に並んだ分子膜が自発的にできます。走査トンネル顕微鏡(STM)の探針を用いて、任意の一分子にパルス電圧をかけると、その分子を起点として一次元的な連鎖重合反応が引き起こされ、導電性高分子の一種であるポリジアセチレン化合物が生成します。結果的に、任意の一点で一度だけ刺激を与えるだけで、わずか一分子幅の導電性ナノワイヤを瞬時に作成することができるのです。
 図2には、連鎖重合反応前後の試料をSTMで観察した像を示します。図2(b)で明るい直線として観察されているものが形成された高分子ナノワイヤです。
 本技術は、欠陥が無く直線性の良い高分子ナノワイヤを形成できること、高速の自発的プロセスを利用するので能率的であること、最初の刺激以外は熱エネルギーのみで反応が進行することなど、多くの利点を持っています。ナノワイヤの基礎的性質の解明、将来のナノデバイス用のナノ配線としての応用、新しいナノデバイスやセンサーの開発等に向けて、基礎・応用両面でのさらなる研究を進めています。

図1 ナノワイヤ作成手順.分子膜(a)の任意の分子にSTM探針で刺激を与えて(b)励起し(c)、連鎖重合反応を誘起することでナノワイヤ(図中の黄色の線)を作成(d) 図2 (a)ジアセチレン化合物分子膜のSTM像
(b)矢印の位置にSTM探針で刺激を与え、ナノワイヤを作成

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