電気めっき法による超伝導MgB2膜の作製に成功

材料研究所
基礎物性グループ
阿部 英樹



 MgB2(二ホウ化マグネシウム)は、昨年、青山学院大学の秋光純教授らにより発見され、従来超伝導導線の材料などに利用されてきた物質に比べ20℃あまりも高い温度、マイナス234℃で超伝導を示します。さらにMgB2は、Mg(マグネシウム)とB(ホウ素)という、ごくありふれた元素でできており、この点でも、実用超伝導体としての高い資質を備えています。一方で、MgB2の実用に際し、一つ技術的な困難があります。それは、Mgが1000℃程度の温度で蒸発してしまうのに対し、Bは2000℃以上の高温でようやく融けるという事実です。そのため、元素を出発原料とした従来の合成法では、B固体にMg蒸気を染み込ませるための頑丈な気密容器、あるいはMg、B両元素を一瞬で気化して反応させる強力なレーザーなど、特別に大掛かりな装置が必要とされてきました。
 このほど基礎物性グループでは、日本原子力研究所と共同で、MgB2の実用に道を拓く新しい合成法を開発しました。それは、性格の全く異なるMg、B両元素を力づくで反応させるのではなく、両元素の化合物であるMgCl2(塩化マグネシウム)とMgB2O4(ホウ酸マグネシウム)を原料とし、これをKCl(塩化カリウム)、NaCl(塩化ナトリウム)とともに融かした液を電気分解することにより、穏やかな条件で合成を行うという方法です。
 モル比10:5:5:2のMgCl2、KCl、NaCl、MgB2O4混合物を600℃に熱して融かします。それに二本の炭素電極をさしこみ、正負両極間に4Vの直流電圧をかけ、電気分解を行います。すると数十分後、負極表面に、厚み約0.05mmのMgB2膜が「電気めっき」されました(図参照)。
 この方法は、電気炉と直流電源さえあれば、ごく手軽にMgB2を合成することができるというだけでなく、好みの形の電極表面にMgB2膜を電気めっきすることができるという特長を持っています。
 MgB2の実用超伝導材料としての潜在能力に、電気めっき法のもつ柔軟性が加わることで、今後、多様な応用分野が広がるものと期待されます。
(本研究成果は、日刊工業、日本工業、日本経済、日経産業、科学、鉄鋼の各紙に紹介されました。)


図 グラファイト電極に電気メッキされたMgB2




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