強度2倍・寿命100倍の
高強度フェライト鋼の開発に成功

超鉄鋼研究センター
耐熱グループ
阿部 冨士雄

 

超鉄鋼研究センター
耐熱グループ
種池 正樹



 我が国では、全電力需要の約70%を化石燃料による火力発電で供給しています。近年、地球温暖化防止に向けて二酸化炭素の排出削減が強く求められており、多量の二酸化炭素を排出する石炭火力発電の高効率化が大変重要な課題となっています。発電効率を向上させるには、より高温・高圧の蒸気を使うことが必要であり、そのような高温での使用に耐える耐熱鋼が必要です。
 当機構では、1997年から開始された超鉄鋼プロジェクトの中で、より高強度のフェライト系耐熱鋼の開発を目指して精力的に研究を進めてきました。その結果、650℃の高温で従来の耐熱鋼に比べ強度2倍、寿命100倍にも達する革新的な耐熱鋼の開発に成功しました。この耐熱鋼を石炭火力発電所に使用することで蒸気温度650℃での運転が可能になり、従来の石炭火力発電よりも約5%発電効率を向上させることができます。それにより、発電所1基当たりで石炭に換算して年間13万トンもの二酸化炭素の排出を削減することができます。
 図に今回開発した鋼と従来鋼の組織写真を示します。これらは結晶粒界近傍に存在する析出物を観察したものです。従来鋼では粒径が300〜500nm程度の大きな炭化物が存在しています。それに対し、開発鋼では数〜数十nm程度のナノサイズの窒化物が析出しています。析出物は細かく密に存在する方が強化に有効であり、またこの窒化物は炭化物より高温で安定です。このように新しい材料設計手法により、結晶粒界近傍の析出物をナノサイズ化することで、結晶粒界近傍組織が強化されて、フェライト系耐熱鋼の使用限界温度を突破することができました。この開発鋼は高価な添加元素や特殊な製造設備を必要としないため、今後大型部材などに実用化する際に有利であると考えられ、産業界からも注目されています。
 今後は溶接性など構造体化に向けた各種材料特性の調査を進め、早期の実用化を目指して研究を進めていく予定です。
(本研究成果は、日刊工業、日本工業、日経産業、化学工業日報、鉄鋼、茨城、毎日の各紙に紹介されました。)


図 透過電子顕微鏡による結晶粒界の比較写真


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