超高圧と物質・材料
計算による高圧新物性の探索

計算材料科学研究センター
第一原理反応グループ
佐々木 泰造



 高圧下では、物質・材料は様々な性質の変化を示します。そして多くの場合、物質を構成する原子の配列が圧力のために大きく変化します。このような変化は、高圧による新物質の創製や新現象の発現のための最も重要な要素です。しかし、高圧発生のため実験による測定には高度な技術が必要となります。計算材料科学はこのような極端条件下での各種性質の変化の理解・予測に大きな力を発揮すると期待されており、その研究開発を進めています。このような研究の一環として代表的な遷移金属酸化物の1つであり、最近では様々な用途への応用が進みつつある二酸化チタン(TiO2)の高圧下での振る舞いを第一原理計算手法により調べました。
 第一原理計算手法は、物質を形作るもととなる電子の運動を、実験値に頼らずコンピュータの力を借りて精密に追いかけることで、様々な原子配置の安定性や各種性質を決定できる方法です。ここでは観測されているものの他いくつかの結晶構造についてこの計算手法を適用して、TiO2の圧力による構造変化を調べました。図1は、実際に調べた結晶構造の例です。計算された自由エネルギー(エンタルピー)の圧力依存性を図2に示します。大気圧ではルチル型構造が安定となり、7.5GPaになるとα-PbO2型構造に変化し、さらに26GPaより上ではバデライト構造が最も安定になっています。これらの変化は、かつて実験により報告されていましたが、今回、計算によっても独立に導くことができました。なお、類似の物質で観測されているブルッカイト型は、準安定構造であり、蛍石型やNi2In型は高圧下で出現しないことも計算から示されました。実験的には、上記構造での性質はあまり知られていませんが、計算ではすべて絶縁体のままであり金属化は見られないなどが予測されました。
 今後、計算手法の適用範囲拡大に加えて、高圧新物質の形成条件の予測などを目指し、さらに理論手法の開発を進めていきます。


図1 TiO2が高圧下で示す種々の結晶構造.青色がTi原子、赤色がO原子を表す.密に並んだO原子の隙間に分布するTi原子の配列により違いが生じている
図2 計算から求めた種々の結晶構造のエンタルピー(ルチル型構造との差).エンタルピーの低いものほど結晶構造が安定となる

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