超高圧と物質・材料
高圧下の電子状態研究と超伝導

ナノマテリアル研究所
ナノ物性グループ
寺嶋 太一



 ナノ物性グループは、当機構で開発したNiCrAl合金を使用した高圧容器を開発し(図1及び表紙写真上)、世界的にも例のなかった約2GPaの高圧下でのドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果測定に成功しました。dHvA効果とは、超低温、強磁場中で金属の磁化が磁場の逆数に対し周期的に振動する現象で、この振動を解析することにより電子の性質を知ることができます。
 今回dHvA効果を測定したUGe2は、大気圧から1.6GPaの臨界圧力までは強磁性体(つまり磁石)であり、これより高圧では常磁性となります。興味深いことに、依然強磁性である約1〜1.6GPaの圧力範囲で超伝導が発現します。
 一般的に超伝導と強磁性は相容れないものです。強磁性体の作る磁場が超伝導の妨げとなるからです。では、なぜUGe2ではこの限られた圧力範囲で、強磁性状態で超伝導が出現するのか? いったいそこでは電子状態にどのような変化が起きているのか?ナノ物性グループでは、臨界圧力を越える高圧までdHvA効果を測定し、これらの疑問に挑みました。
 図2が結果の一例です。試料は東北大学極低温科学センターで作成され、測定は当機構の強磁場研究施設で行いました。挿入図に示したのが、大気圧(0.1MPa)と臨界圧力以上の高圧(1.76GPa)でのdHvA振動です。それぞれの振動に含まれる周波数成分を知るためにフーリエ変換を行った結果がメインパネルです。一つ一つのピークが異なる性質の電子に対応します。臨界圧力をはさんで電子の性質が大きく変わることがわかります。さらに、電子の見かけの重さ(有効質量)が超伝導の発現する圧力域で大きく変わることもわかりました。これらの発見は、UGe2の不思議な超伝導を解明する鍵となると考えます。
 このように今回開発したシステムは、高圧下の電子状態研究の強力な武器となるでしょう。


図1 NiCrAl合金を使用した2層式高圧容器
当機構強磁場研究施設の超伝導磁石・希釈冷凍機と組み合わせて、 20テスラの強磁場、絶対温度0.03度の超低温での精密物性測定が可能です

図2 UGe2の大気圧と1.76GPaにおけるdHvA振動(挿入図)
とそのフーリエ変換. 測定温度は絶対温度0.07度


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