超高圧と物質・材料
新物質・立方晶窒化ケイ素の合成

物質研究所
超高圧グループ
関根 利守



 窒化ケイ素は、良く知られたセラミックスで化学式Si3N4と表せ、高温構造材料として研究開発が進められています。高温高圧の超常環境を利用した物質・材料開発は、より強い化学結合をもつ物質を出現させることができるという意味で21世紀の社会や産業を支える大変重要な役割を担っています。強い化学結合を持つ物質は、機械的性質や物理化学的性質において優れるばかりでなく、電気的性質や光学的性質においても優れたものが期待されているからです。
 従来の窒化ケイ素は、1300℃、13GPa以上の高温高圧状態にすると、密度が25%も増加した新物質、スピネル構造の立方晶窒化ケイ素に変換します。図に結晶構造が比較されているように、圧力を与える前には、全てのシリコン原子は4個の窒素で取り囲まれていたものが、この変換によって、全体の2/3のシリコン原子は6個の窒素で取り囲まれることになります。この結果、硬度もダイヤモンドやcBNなどの次に硬い物質であることが明らかになりました。
 この立方晶窒化ケイ素を合成するには、地球の深さに換算すると400 kmもの深さに相当する圧力(13GPa)が必要となります。このような超高圧状態を発生させる方法としては、静的圧縮と動的圧縮の2通りがあります。両者の方法で合成は可能ですが、前者は充分な量の試料を得るには限界があります。後者の方法では、量的な制約は問題になりませんが、反応に時間的制約を受けます。それは原理的に衝撃波を利用する方法だからです。この時間的制約は、逆に比較的粒子サイズの揃った、ナノ粒子の合成には力を発揮します(表紙写真下参照)。
 窒化ケイ素以外の窒化物では、現在のところ周期律表でシリコンと同族元素を含むGe3N4やSn3N4がそれぞれスピネル構造になることが知られています。また、窒化ケイ素の仲間にサイアロンという酸窒化物が知られていますが、このサイアロンも高温高圧状態で処理するとスピネル構造の立方晶サイアロンが得られることが明らかになりました。このようなスピネル窒化物などに関する国際ワークショップをドイツや日本などのグループを中心にこの秋に開催予定です。詳細は、http://www.hotmaterials.de/ をご覧下さい。
 これらの結果を踏まえて、今後、立方晶窒化ケイ素の性質を更に詳細に調べることで、超硬物質や半導体などの用途としての応用が期待されます。


図 低圧相窒化ケイ素(a)と立方晶窒化ケイ素(b)の結晶構造の比較



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