超高圧と物質・材料
超高圧の夢

物質研究所
超高圧グループ
竹村 謙一



 超高圧力の極限を探ることは未知の世界へのあこがれをともないます。物質は原子から成り立ち、1個1個の原子はさらに原子核と電子から構成されています。物質のさまざまな性質、たとえば硬さ・色・電気伝導性・磁性などはほとんどが原子の最外殻電子(固体中では価電子ないし伝導電子)によって決まっています。固体の電子構造によって物性が理解されるゆえんです。
 さて原子に圧力を加えるとどのようなことが起きるのでしょうか?1個の原子を取り出して圧力を加えることはできないので、実際には固体に圧力をかけることになります。原子が集まって固体を作っている時、各原子の最外殻電子は原子を離れて固体中に分布します。それが局在していれば絶縁体、自由に動き回れば金属となります。圧力下で原子間隔が短くなると局在した電子も隣りの原子へ移動しやすくなりますから、一般に高圧では金属状態が実現します。またもともと金属であったものも圧力に応じて電子のバンド構造、すなわち電子構造が大きく変化し、それに応じて結晶構造が変化します。図に圧力下でのセシウムの結晶構造の移り変わりを示しました。高圧になるにつれ原子間隔が短くなって、ひじょうに密度の高い構造があらわれることが実感されるでしょう。
 それではさらに高い圧力ではどうなるのでしょうか?実はその答えはまだ誰も知りません。ただひとつ考えられるのは原子が壊れていくだろうということです。さきほど最外殻電子が物性を支配すると言いましたが、これはあくまで1気圧での話。超高圧では、さらに内殻の電子も原子の束縛を離れて固体中に漂い出すでしょう。言い換えると原子の殻が一皮むけるわけです。これは圧力イオン化と名付けられています。理論計算によれば圧力イオン化は数百から数千GPa(1GPa=1万気圧)で起こるだろうと言われています。われわれ超高圧グループでは圧力イオン化の検証をひとつの夢としてさまざまな超高圧力発生技術の開発を続けています。


図 超高圧グループの実験で得られた高圧下のセシウムの結晶構造と密度(密度ρの単位はg/cm3



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