世界最高磁場を用いた
高分解能NMR分析の実現

ナノマテリアル研究所
ナノ物性グループ
清水 禎



 NMR(核磁気共鳴)はバイオやナノを支える基盤的な分析技術です。近年特に著名な使用例はゲノム構造解明への応用で、軌道放射光と並んでNMRが中心的役割を果たしており、莫大な社会的波及効果が期待されています。
 NMRは強い磁場を用いるほど感度と分解能が原理的に向上するため、マグネットの強磁場化と分光装置の高周波化はNMRにとって普遍的な開発要素です。従来品の最高値は800MHz(18.8Tの磁場に相当)でした。
 当機構の強磁場研究センターが昨年開発した世界最高磁場21.6Tを発生する超伝導マグネット(既報)に、今回、920MHz(21.6Tでの水素核NMR周波数に相当)という未踏の高周波と高磁場対策を実現した分光装置を組み込んで(図1)、高分解能NMR分析の実現に成功しました。図2はNMRの標準試料であるエチルベンゼンの分析結果です。縦軸は水素核NMR信号強度、横軸は920MHzを原点として計った共鳴周波数の移動量(物質の構造を反映)です。低磁場マグネットでは観測困難な約7Hzの全ての分裂が容易に観測されていることから、磁場の安定度や分解能などの基本性能において高精度のNMR測定が実現していることが分かります。
 トータルシステムとしてのNMR開発は、多次元高周波パルス技術を駆使する核スピン物理等の先端的学術研究から超伝導線材や信号検出器に用いる材料の探索型研究までの広範な分野の技術開発を短い更新期間で集約するダイナミックな力が要求される特殊な製品開発分野です。バイオやナノなど次世代の大型市場では、限りなく高磁場かつ高分解能のNMR分析が要求され続けており、世界最高水準のNMRシステムを純国産で達成することには大きな意義があります。
 当機構では更なるNMRシステムの開発を計画しており、完成すれば固体化学での構造解明はもちろん、ナノ技術の究極目標の一つである量子計算機を実現する最有力候補として、NMR量子計算機の開発にも活躍が期待されています。

図1 今回開発に成功した高分解能NMR分光装置が
組み込まれているNMRシステム

図2 エチルベンゼンの水素核NMRスペクトル



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