同位体シリコン単結晶ナノワイヤーの大量合成に成功

ナノマテリアル研究所
ナノファブリケーション研究グループ
野田 哲二



 周期表の多くの元素は質量の異なる同位体から構成されています。従来、同位体はトレーサとしてしか利用されていませんでした。しかし、同位体レベルで純度を上げた材料は、熱物性や核的な性質に優れた性質を持つことが期待されています。
 当機構では、シリコンを中心に、同位体濃縮及びその材料化技術開発を進めてきました。今までに、高速マイクロチップ材料、量子コンピュータ素子としての利用が期待されているSi-28について、500グラムを超えるSi-28濃縮フッ化ガスを合成しています。このフッ化ガスをプラズマCVDによりすべてシリコン粉末に変換し、さらに浮遊帯域溶融法により単結晶棒に成長させる作業を行ってきました。その際、副産物として、溶融部より上方部に黄色の綿状の物質が大量に生成しました。その生成割合は、最大7mg/hでした。生成された綿状の物質を電子顕微鏡で観察した結果、ナノワイヤーの集合体であることがわかりました(図参照)。さらに、詳細に調べた結果、ナノワイヤーの大きさは、直径が5-50nm、長さが0.1μm-3mmのシリコンの単結晶であることがわかりました。なお、市販の高純度のシリコン粉末を固めて浮遊帯域溶融したものでは、このようなナノワイヤー生成は起こりませんでした。
 本方法による粉末では、同位体濃縮したフッ化シリコンガスを金属シリコンに変換する過程で数%のSiF2のようなフッ化物ならびにSiOのような酸化物が残存しており、このような不純物は、シリコン単体より低温で気体として昇華しやすいため、いったん蒸発したシリコン化合物が、低温部でシリコンナノワイヤー状に析出したものと考えられます。
 シリコンナノワイヤーは極微細線であるため、フォノン同士の相互作用が低減され、バルク材に比べてはるかに優れた熱物性特性や機械的特性が期待されるなど、今後、量子素子やナノマシン用材料として期待されます。
(本研究成果は、日刊工業、日本工業、日経産業、化学工業日報の各紙に紹介されました。)

図 Si-28同位体単結晶ナノワイヤーの電子顕微鏡写真



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