世界最高性能を有する原子識別電子顕微鏡の開発
 
酸素原子の周期的な配列像の観察に世界で最初に成功

物質研究所
超微細構造解析ステーション
板東 義雄



 電子顕微鏡を用いて試料を透過した非弾性散乱電子をエネルギー分析器により検出して画像化すると、特定の元素の分布像(エネルギーフィルター像ともいう)を観察することができます。しかし、これまでは元素分布像の分解能が1〜2nm程度で、原子レベルの高分解能観察には困難でした。
 今回、日本電子鰍ニ共同で、加速電圧を従来の100kVまたは200kVから300kVの高電圧にし、さらに高性能のオメガー型のエネルギー分析器を開発することにより、世界最高のエネルギーフィルター像(分解能が0.5nmで世界最高)の観察が可能な新型の原子識別電子顕微鏡を開発することに成功しました。また、本装置を用いて、これまで観察が困難とされていた酸素原子の周期的な配列像を原子レベルの解像度で観察することに世界で初めて成功しました。
 今回開発した原子識別電子顕微鏡は、試料を透過した非弾性散乱電子を検出して、特定元素の分布像を原子レベルの高分解能で画像化できます。当ステーションが行った理論計算によれば、エネルギーフィルター像の分解能は加速電圧が増大するにつれて向上し、300kVでは世界最高の0.5nmの理論分解能が達成可能です(図1)。
 図2はAl11O3N9結晶の酸素原子のエネルギーフィルター像です。AlN(窒化アルミニウム)は半導体の基板材料として用いられていますが、不純物の酸素が入ると性能を劣下させることから、酸素不純物の分布状態を調べることが重要です。図で白く線状に光っているのが酸素原子に対応したエネルギーフィルター像です。c軸方向に約2.9nmの間隔で周期的に並んだ酸素原子列層が白いコントラストとして観察されています。酸素像の線幅の広がり測定から、分解能が約0.5nmであり、理論計算結果値を達成することができました。
 本装置の出現により、ナノテク開発研究が速いスピードで前進すると期待されます。
(本研究成果は、日刊工業、日本工業、日経産業、化学工業日報の各紙に紹介されました。)

図1 エネルギーフィルター像の理論計算結果.
300kVで世界最高の0.5nmの分解能を実現予測

図2 世界で初めて捕らえたAl11O3N9中の酸素原子の周期的な配列像.世界最高の分解能(0.5nm)を実現


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