高出力レーザ溶接の実用化に新しい道
 
溶接欠陥の発生を大幅に抑制

材料研究所
構造体化研究グループ
塚本 進



 加工用レーザ発振器は、ここ数年来めざましく高出力化が進んでおり、これを厚板の高能率溶接に使うことが産業界で期待されています。しかし、溶込みが深くなるほど、ポロシティなどの溶接欠陥が顕著に発生するようになり、これが実用化の大きな障害となっています。
 当研究グループでは、20kW CO2レーザ溶接装置を導入し、高品質深溶込み溶接技術の開発に取り組んできましたが、このたび20mm程度の深い溶込みを持つ溶接部で、溶接欠陥を大幅に抑制することに成功しました。図1は高出力レーザで溶接しているときの様子を模式的に描いたものです。
レーザが当たっている部分では、材料の溶融と蒸発によりキーホールと呼ばれる細長い空洞が形成されています。溶接欠陥の発生は、溶接中このキーホールがいかに振舞うかによって決まります。そこで、キーホールの動きをX線透視像の高速度撮影により観察し、欠陥の形成機構を調べてみました。その結果、通常の高出力溶接では、キーホールの深さが自然発生的にランダムに大きく変動していること、溶接欠陥は、キーホールが急激に短くなるときに、先端が不安定現象によりちぎれて発生することがわかりました。
 そこでキーホールの動きを自然に任せるのではなく積極的に制御することを考え、レーザ出力に周期的な脈動を付与することを試みました。脈動により溶融金属表面では波が発生しますが、この波と共振する周波数でレーザ出力を変動させると、キーホールを安定に制御できることがわかり、欠陥の発生を大幅に減少させることができました。脈動する出力の波形を適切な形状に制御するとすると、さらに欠陥の抑制効果を高めることができます。図2は、溶接部の中心を縦に切断した断面を示します。通常の一定出力溶接で大きなポロシティが発生しているのに対し、適切な周波数及び波形で出力を変動させることにより、欠陥が著しく抑制できていることがわかります。
 この技術は、待望されている高出力レーザ溶接の実用化に新しい道を開くものであり、今後の発展が期待されています。
(本研究成果は、日刊工業、日本工業、日経産業、化学工業日報、科学新聞、鉄鋼新聞の各紙に紹介されました。)

図1 高出力レーザ溶接時の挙動と溶接欠陥の発生

図2 レーザ出力の変調制御による溶接欠陥の抑制出力を適切な周波数、波型により変動させることにより溶接欠陥が効果的に抑制できる(溶接構造用炭素鋼を溶接)


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