柔軟で生体親和性に優れた
新しい経皮デバイスの開発

国立循環器病センター
生体工学部長
岸田 晶夫

  

生体材料研究センター
センター長
田中 順三



 当機構生体材料研究センターは、国立循環器病センターと共同で研究を進め、柔軟でなおかつ生体親和性の高い経皮デバイスを開発しました。
 経皮デバイスは、生命維持管理装置や人工臓器などのように生命にかかわる装置にたくさん使用されています。たとえば体外から体内に皮膚を貫通して栄養や薬液を注入したり、血液を体外に取り出して処理して体内に循環したりするために用いられています。現在使われている経皮デバイスは、材料が皮膚に接着しないため、身体に装着すると皮膚のダウングロース(皮膚が材料表面に沿って体内に落ち込む現象)が起き、細菌感染につながります。そのため、臨床現場では患者教育を行って消毒管理を徹底する対処療法がとられています。
 私たちの研究グループは、古くからカテーテルなどの医療用具に用いられているシリコーンに着目しました。シリコーンは、ほかの材料にはない優れた柔軟性をもっています。しかし、細胞が接着できないという致命的な欠点が知られています。そこで、生体活性に優れているハイドロキシアパタイトをシリコーンの表面に複合化する技術を検討しました。アパタイトは硬くて脆いという欠点がありますが、皮膚とよく接着する性質があります。
 シリコーンは有機物ですが、アパタイトは無機物です。そのため、この両者をどう結合させるかが問題です。それを解決するため、シリコーンの表面に有機官能基(カルボキシル基)をもつ高分子を結合させました。一方、アパタイトの微粒子(粒径2μm)の表面にアミノ基をもつ高分子を共有結合で導入しました(図1)。さらに、この両者を反応させて、シリコーンの表面にアパタイトの微粒子を結合させることに成功しました。
 本材料はシリコーンの柔軟性を保ったまま、表面にアパタイトの生体活性が現れます。この複合体をラットの背部に埋植したところ、複合体は皮膚とよく接着して、わずか6日間で治癒しました(図2)。一方、未処理のシリコーンを埋植すると、傷口は塞がることなく炎症が長期間続きました。
 本複合体は細菌感染を防止する素材として非常に有用であるため、具体的なデバイス加工に研究が展開しています。
(本研究成果は、読売、日刊工業、日本工業、日経産業、化学工業日報の各紙に紹介されました。)

図1 複合体の化学結合状態

図2 アパタイト・シリコーン複合体(左)とシリコーンのみ(右)を埋植した場合の経皮部の比較


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