三元系形状記憶合金薄膜のナノ組織制御

材料研究所
インテリジェント材料研究グループ
澤口 孝宏



 近年、バイオテクノロジーや新薬創製の分野において、DNAチップやマイクロリアクターなど各種マイクロシステムが提案されています。システムの構成要素のうち、ポンプやバルブなどの微小流体を扱うデバイスには、従来のアクチュエータを超える大変位・高出力を特徴とする形状記憶合金薄膜アクチュエータの応用が期待されています。
 既に、当機構で開発したTi-Ni二元系合金スパッタ膜の特性は実用レベルに達しており、研究開発の次のステージであるアクチュエータの試作と特性評価を行っています。一方、薄膜プロセスに特異な非平衡組織や微細組織を利用することにより、作動温度が高く、信頼性に優れた新しい三元系合金薄膜の開発も進めています。
 これまでにTi-Pd-Ni系では、低温熱処理によって母相内に厚さ数nmの板状析出物を均一に生成させることができ、その結果、200℃以上においても信頼性のある形状記憶特性が得られることを見出しました。
 また、Ti-Zr-Ni系合金は、高温でマルテンサイト変態を示しますが、脆いために形状記憶効果は得られていませんでした。薄膜では、結晶化過程において第二相(λ1相)を微細に析出させることにより母相の粒径を100〜200nmまで微細化することに成功しました(図1)。この薄膜では強度と靱性が向上する結果、600MPaの大きな発生力と120℃以上での高温形状記憶効果が得られています。
 形状記憶合金薄膜アクチュエータの実用化には、(1)薄膜、(2)アクチュエータ(積層薄膜)、(3)デバイス、(4)システムの各段階における研究開発が必要です。当グループでは、異なる分野の研究者・技術者との共同研究を行い(図2)、実用化に向けて一歩踏み込んだ研究開発を進めています。

図1 500℃、10時間真空熱処理した(Ti35.0Zr15.3)Ni49.7薄膜の透過電子顕微鏡組織 図2 Ti-Ni形状記憶合金薄膜マイクロアクチュエータを用いたマイクロカンチレバー(立命館大学 田畑研究室との共同研究)
(数Vの電圧をON・OFFすることにより、アクチュエータは赤矢印のような動作をします)



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