表面欠陥による応力の発生と緩和
微小応力検出と欠陥カウンティング

材料研究所
物性解析研究グループ
板倉 明子



 応力とは物体の内部で作用する力で、内力または歪(わい)力とも言います。厳密ではありませんが、気体や液体での圧力などを考えると、イメージしやすいかも知れません。私たちは物質の応力を測定することで、物質本来の、あるいは反応中の表面特性を調べています。
 金属でも不導体でも、単結晶表面の原子は、きちんと配列して周期構造を作っています。固体の内部とは異なる表面に特有の配列を組んでいることもあります。きちんと配列した原子は、電気的に、また力学的につりあっていますが、イオンなどの粒子がぶつかり表面に欠陥ができるなどして配列が乱れると、つりあいがこわれて表面応力が発生します。この場合の応力は表面を縮めようとする、あるいは伸ばそうとする横方向の力です。
 図1は表面に発生する微小な応力を測定する装置です。小さなシリコンの板(400×50×2μm)の一端を固定し、片側の表面に欠陥を作ると、表が伸びた分板がそってδの値だけゆがみます。ごく小さなゆがみの値(変位)を、光てこ法で拡大することによって、板の先端が0.1nm動けば検出できるようになりました。ゆがみの値から応力を計算することで、表面にどのくらい欠陥が生じたか知ることができます。
 図2はイオンをあてながら応力が生じていく様子を、リアルタイムで測定した図です。2000秒間のアルゴンイオン照射で0.38 N/mの応力が発生しました。この応力は、試料表面に面積あたり約8×1020個/m2の欠陥ができたことに対応しています。最近、乱れた表面に低エネルギーの電子をあてると、応力がもとの値に回復することもわかりました。電子照射中の応力変化を図2に赤い線で続けて書きましたが、欠陥性応力がゼロにもどっていくのがわかります。乱れていた表面が、電子照射後に再び周期性をもつ配列に戻っていることもSTM(走査型トンネル電子顕微鏡)像から確認できています。
(この研究は「欠陥性応力センサー」、「欠陥性応力の緩和法」として、それぞれ特許出願中です。)

図1 微小応力測定装置:試料、窓、レーザー光学系を一体にして、振動の影響を抑えている

図2 欠陥生成中および電子照射中の応力変動



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