水溶液法で酸化亜鉛を直接パターニング

物質研究所
電子材料グループ
齋藤 紀子



 酸化亜鉛は、多機能セラミックスとして注目される材料の1つです。透明でありながら電気を流すという性質を利用して、太陽電池やディスプレイなどの光透過を必要とする場所での電極材料のほか、低加速電圧で発光する特性を応用して、低電力小型ディスプレイ用の蛍光材料に期待されています。これらのデバイス化のためには、配線、配列のためのパターニング技術が不可欠です。
 当グループは、客員研究員河本邦仁教授(名古屋大学)との共同で、水溶液法によって酸化亜鉛を直接パターニングする技術開発に成功しました。まず、基板を化学溶液(フェニルトリクロロシラン)に浸し、自己組織膜と呼ばれる有機薄膜層を作ります(図1a)。露光装置を使って、マスクパターンを投影すると光があたった部分の薄膜がこわれます(図1b)。これを触媒液に浸すと、薄膜層の残った部分にのみ触媒が付きます。次に亜鉛の中性反応水溶液に浸すと、触媒付近のpHが上昇し、酸化亜鉛を選択析出させることができます(図1c)。その結果、粒径200ナノメートルの粒子でできた最小線幅1ミクロンの酸化亜鉛パターンを描くことができました。この酸化亜鉛パターンに電子をあてると、ナノ粒子1つ1つが発光しているのをとらえることができ、低温合成でも十分に機能を有することが示されました(図2)。
 今回の酸化亜鉛パターニング法では、これまでの高温環境下での薄膜作製−エッチングというプロセスとは異なり、約50℃の低温、常圧、中性水溶液中という条件で直接パターン析出ができるため,生産コストが低減化できるばかりでなく,基板の材料制約がほとんどないのが特徴です。また、高分子基板への適用を試みることで、将来考えられている折り曲げ可能のフレキシブルディスプレイへの応用にも期待できます。 今後は、酸化亜鉛だけではなく、他の酸化物セラミックスのパターン析出にも応用し、セラミックスデバイス作製の新手法としての展開を進めていきます。

(本研究成果は、日刊工業新聞、日本工業新聞、日経産業新聞、化学工業日報、科学新聞の各紙に掲載されました。)

図1(a)自己組織膜の作製、(b)紫外光による自己組織膜の
   パターン化、(c)フェニル基上への触媒付与と酸化亜鉛析出



図2 作製した酸化亜鉛パターンの波長600nmカソードルミネッセンス強度マップ




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