圧力下における
カーボンナノチューブの変形

材料研究所
物性解析研究グループ
唐 捷



 結晶のように規則的な構造と対称性を持ち、純粋に炭素だけでできた驚くほど細長いカーボンナノチューブは、10年ほど前、飯島澄男教授(名城大学)によって発見されました。それ以来、既存の物質には見られない高い復元力や引っ張り強度、熱伝導度など多くの並はずれた性質を持つことが明らかにされてきました。そのため、科学者だけでなく、産業技術の面からもますます注目されています。
 カーボンナノチューブには 1枚の炭素シートでできた単層のものと何枚ものシートからなる多層のものがあります。特に単層カーボンナノチューブでは、極端な量子的性質を示すことが知られています。単層カーボンナノチューブの機械的性質は軸方向に対して、ダイヤモンドよりも強くなっています。一方、軸方向と垂直な方向の柔らかさはまだ実験的に明らかにされていません。我々は、単層
カーボンナノチューブの束に1万気圧以上の圧力をかけ、ナノチューブの変形の様子とそれに伴う電子構造の変化を、放射光高圧X線回折測定と理論解析、電気抵抗測定を使って世界で初めて明らかにしました。
 図1は、圧力を加えたときのナノチューブ同士の中心間距離を示したものです。実験結果に基づいて、当機構の佐々木泰造(計算材料研究グループ)が行った理論計算によると、高圧下では、ナノチューブの壁同士の距離が縮むだけではなく、ナノチューブ自体の形が円形から六角形へと変形していくことが分かりました。また、この実験結果から、圧縮率も初めて求めました。
 このナノチューブの変形に伴い、その電気的性質も変わっていきます。図2は、電気の通りにくさの目安となるバンドギャップの圧力変化を示したものです。1万5千気圧までは、バンドギャップはやや大きくなっています。これは圧力によるナノチューブの変形効果が主な原因だと思われます。さらに高い圧力では、バンドギャップは、急に小さくなっています。ここでは、ナノチューブの形が六角形から大きく変化しているものと考えられます。
 これらの成果は、今後ナノチューブを様々な環境下で活用していく上での基礎データとして役立つと考えられます。


図2 バンドギャップの圧力依存性

図1 ナノチューブの中心間距離の圧力変化と
チューブの変形の模式図

 





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