特集“環境・エネルギー材料”

環境ホルモンの浄化・光触媒の開発

物質研究所長
渡辺 遵



 当機構ではミレニアムプロジェクトの一環として「有害化学物質除去触媒の探索・創製に関する研究」を押し進めています。独自に開発したホーランダイト型触媒や強力な酸化力を呈する酸化チタン触媒などを基盤にして、環境ホルモンを生活空間で効果的に分解、浄化する光触媒と浄化プロセスの開発に取り組み、これまでにダイオキシンの無毒化プロセスや光透過性高比表面積触媒担体の作製などで有効な進捗をみています。
 ダイオキシンは環境ホルモンの一種です。75種の同族体があり、ベンゼン環についた塩素(Cl)の数で毒性が大きく異なります。図1に最強毒性の同族体の分子構造を記します。その毒性は青酸カリの1万倍ほどです。このように微量でも有害な化学物質の分解、浄化には、光触媒の活用が有効な方策の一つと言われています。光触媒は光照射により活性化され、その表面に吸着した有害化学物質を分解、浄化する作用を発現します。図2にホーランダイト薄膜上の青色色素が、光触媒作用により分解される様子を示しました。
 光触媒作用でダイオキシンを浄化するには、酸化して炭酸ガスなどに分解する方法あるいは毒性に密接に関係するC−Cl結合を選択的に切断し無毒化する方法が考えられます。酸化チタンは前者に属します。ホーランダイト型触媒は後者の特徴を秘めています。そこで、ホーランダイト触媒と酸化チタン(P25)にヘプタクロロダイオキシン(HpCDD,図1参照)を塗布し、光照射する実験を行いました。その結果を図3に示します。P25は光照射とともに炭酸ガスを急激に発生し、HpCDDの分解を示唆しますが、直ぐに転化挙動が急激に落ちました。一方、ホーランダイトでは炭酸ガスの発生は緩慢でしたが、光照射終了後に触媒表面のHpCDDを抽出した結果、検出できませんでした。即ち、C−Cl結合が切断され、HpCDDが極性芳香族に転化されたことを示唆します。環境ホルモンの一種とされるペンタクロロフェノールなどに対しても酸化チタンにはない浄化特性が見出されています。
 光触媒の利用にあたっては、高比表面積で光透過性の担体に触媒を担持することが有効です。本研究では、無アルカリケイ酸塩ガラス基板上にナノサイズの光透過性多孔質アルミナ柱状組織を作製することに成功しました。孔径は酸処理時間等の制御により、60〜180nmの範囲で変えられました。その例を図4に示します。孔径180nmでは、紫外域で約70%、可視域で約90%の光透過性を達成しました。さらに、これらの細孔中にチタニアゾルを鋳込み、その後の酸処理によりアルミナ鋳型を除き酸化チタンナノチューブ群を作製することもできました。
 触媒のハイブリッド化などにより浄化性能の一層の向上と浄化デバイスの開発を目指します。また、多様な環境ホルモンに効果的に対処するため、触媒材料の高速高効率な開発システムを構築し、酸化チタン光触媒等の高性能化を目指します。

図1 ダイオキシンの分子構造
  左:2,3,7,8-TCDD(最強毒性ダイオキシン) 右:1,2,3,4,6,7,8-HpCDD(ヘプタクロロダイオキシン)




図2 ホーランダイトの光触媒作用による青色色素の分解 左:ホーランダイト薄膜、右:YSZ基板

図3 光触媒作用によるヘプタクロロダイオキシンの転化挙動
○:ホーランダイト、△:P25



図4 光透過性多孔質アルミナ柱状組織
(左:処理時間30分, 右:処理時間60分)





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