特集“ナノ物質・材料”その2

新超伝導材料の研究開発
超伝導による21世紀の産業革命を目指して

材料研究所
材料基盤研究センター長
戸叶 一正



 電気抵抗ゼロの超伝導現象は、電力、輸送、医療から通信、情報に至る広範な分野に応用が図られており、21世紀を支えるキーテクノロジーとして期待されています。これらの一刻も早い実現を目指して、当機構は新超伝導材料の研究開発プロジェクトを強力に推進し、我が国における超伝導研究の中心的な役割を果たしてきました。
 超伝導応用の発展の基礎となるのは、まず特性の優れた物質の発見です。15年前の酸化物系高温超伝導体の発見が社会的にも大きな反響を呼んだのはご記憶のことと思います。この時、当機構もビスマス系高温超伝導体の発見という大きな貢献をしました。今年になって、酸化物系以外にもMgB2やC60のFET(電界効果型トランジスター)構造で非常に高い臨界温度が発見され、再び超伝導が脚光を浴びています。
 しかし実用化のためには、発見された物質を線材や薄膜等の形状に加工しなければなりません。当機構では新物質探索と同時に、ナノレベルでの組織・構造制御による物性改善、線材、薄膜、単結晶等のプロセス開発、さらに実用性確認のためのプロトタイプの超伝導機器の試作等、基礎から応用まで一貫した研究開発を進めています。
物質探索では超高圧の利用で臨界温度が100Kを超える数多くの新物質を合成することに成功し、さらに高い臨界温度に挑戦中です。新物質探索の基礎となる構造評価や理論、物性研究も順調に進行しています。また、ビスマス系(Bi-2212)の線材開発では、臨界電流密度の記録を樹立するなど、常に世界をリードする研究成果を挙げてきました。産業界とも協力し、数キロメータの実用レベルの長尺化にも成功しています(図)。さらに最近では、MgB2の線材化にも成功しました。開発したビスマス系線材を使って、環境保全に有用な磁気分離システムが既に完成し、さらにタンパク質の構造解析に有用な1GHz級NMRシステムも間もなく完成する予定です。また、通信・情報処理の能力を飛躍的に高める新素子開発のための高品質単結晶や薄膜作製も順調に進められています。
 このように、当機構では基礎・基盤研究と応用開発研究が有機的に連携された研究が効果的に進められています。

図 ビスマス系長尺線材の断面




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