アパタイト系化合物を用いて
靭帯・骨の直接結合に成功
靭帯再建のリハビリ期間を大幅に短縮


茨城県立医療大学
整形外科
坂根 正孝

物質研究所
生体材料グループ
田中 順三



 スポーツ人口の増大にともない、靭帯を損傷する患者数が増加しています。特に「膝前十字靭帯損傷」の再建手術は年間2万件ほど行われています。その治療法として、本人の腱(大腿屈筋腱)の一部を取って、膝の大腿骨と脛骨に開けた骨トンネルに移植する手術が行われています(図1)。この移植手術では、移植した靭帯が周囲の骨といかに速く、いかに強く固着するかが大切です。
 物質研究所では、骨の主成分であるリン酸カルシウムを「移植靭帯」にコーティングする技術を研究してきました。その結果、靭帯を“カルシウム系水溶液”と“リン酸系水溶液”に交互に浸し、その内部に骨に似たリン酸カルシウム(アパタイト系化合物)を析出させることに成功しました。靭帯の表面から内部に向けてリン酸カルシウムが傾斜的に分布しているため、骨と靭帯の接合面が強固に結合するのが特徴です。
 この方法の有効性を実証するため、茨城県立医療大学と筑波大学スポーツ医学は、ビーグル犬を使った動物実験を行いました。その結果、図2のように、手術後4週間で移植した靭帯が骨と直接結合し、良好に治癒することが実証されました。コーティング処理をしないこれまでの方法では、移植した靭帯と骨の間に線維性組織が介在して、治癒に時間がかかっていました。
 今回開発した技術は、靭帯再建のリハビリ開始期間を短縮し、長期成績を良くする有効な固定技術として期待されています。実際には手術現場で使われますので、短時間で確実に、しかも清潔な条件で処理を行う装置が必要になります。現在、科学技術振興事業団の「独創的研究成果共同育成事業」で、薬液量・処理時間・洗浄廃液などを自動的に制御する装置の開発・実用化を進めています。

(8月29日付の読売、毎日、日経産業、日刊工業、日本工業新聞に掲載されました。)

図1 今回開発した靱帯再建法

図2 靱帯と骨が直接結合した様子





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