二酸化チタン表面上のメカノケミカル処理による
局所高速疎水化


物質研究所
環境材料グループ
亀井 雅之


 水滴のつかないサイドミラー、汚れにくいタイル、空気清浄機、これら身近に存在する製品の共通のキーワードが「光触媒」であり、最も広く用いられている物質が二酸化チタンです。最近の光触媒脱臭機能を備えた空気清浄機の内部には紫外線を発生するランプが備えてあり、二酸化チタン表面に紫外線を照射します。すると空気中の臭いの原因物質が二酸化チタン表面で分解されるため、脱臭効果を示します。これ以外にも二酸化チタンは紫外線の照射により様々な現象を示しますが、総称して「光触媒効果」と呼んでいます。
 この二酸化チタンの示す光触媒効果の一つとして「親水・疎水スイッチング現象」があげられます。通常二酸化チタン表面に水滴を落とすと半球に近い形状の水滴となります。これは水と二酸化チタン表面の接触面積を小さくしたほうが安定であるためで、疎水性表面と呼ばれます。ところがこの二酸化チタン表面に紫外線を照射すると、落とした水滴が水溜りのように広がり、水と二酸化チタンの接触面積を大きくしたほうが安定な親水性表面に変化します。この親水性表面はしばらく紫外線を照射せずに放置すると自然に疎水性表面に戻ります。
 最近我々はこの親水・疎水スイッチングに関して新たな現象を発見しました。それは紫外線照射により親水化した二酸化チタン表面に、水で濡らした状態で機械的刺激を与えると刺激を与えた部分だけが局所的かつ高速に疎水化するという現象です。機械刺激というと大げさで、実際は超純水を含ませたクリーンペーパーで表面を撫でる、あるいは表面に水滴を落としておいてガラス棒で撫でるという程度です。図1に紫外線照射直後の二酸化チタン表面に滴下した水滴の様子を示します。試料表面に隣り合わせに2つ水滴を落としてありますが、紫外線照射により全体が親水性となっているために、水滴は両方とも水溜りのように広がって見えています。この状態で向かって右側の水滴の位置のみに上記の機械的刺激を与え、改めて水滴を滴下してみると図2のようになります。刺激を与えた位置は疎水化し、丸い水滴が観測されますが、刺激を与えていない位置は親水性が保たれます。水をつけて撫でると親水化ではなく疎水化するというこの奇妙な現象のメカニズムは現在不明であり調査中です。局所的に親水・疎水性を制御できるので印刷技術などへの応用が期待されます。

図1 紫外線照射後の親水表面

図2 局所疎水化処理後の共存表面





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