生体材料研究
神経を再生する材料


物質研究所
生体材料グループ
田中 順三
物質研究所
生体材料グループ
山口 勇


 ケガなどで神経が損傷した場合、治療のために移植手術が行われます。自分の神経を採取して損傷部位に移植しますが、身体の他の部分からそんなにたくさんの神経を取ることはできませんし、また取り出した跡がしびれる問題もあります。そのため、自分の神経を使わないで治療する手術法が、現在世界中で研究されています。その方法が「神経組織再生法」です。
 神経組織再生法は、図1のように、切断した神経の両端をチューブでつなぎ、その中に神経を再生させる方法です。しかし、この手術に使うための優れた材料がまだ開発されていません。特に、チューブには、神経がつながった後、身体の中で自然に分解する性質が求められています。
 少し話がそれますが、皆さんは、カニを食べた時、足の部分に白くて細長いひものようなものがあることをご存じだと思います。そのひもがカニの腱です。カニの腱は、キチンという高分子が規則正しく整列した材料で、優れた機械的性質を持っています。私たちの研究グループは、そのカニの腱からタンパク質や無機物を除去し、さらに脱アセチル化という化学反応を行ってキトサンのチューブを作りました。キトサンは多糖類の一種ですが、身体になじみやすく、体内で分解する性質があります。そこで、この材料を使って、切断したラットの坐骨神経を接続したところ、神経組織がチューブの中で成長する様子が観察されました(図2)。
 神経が速く再生されるためには、ラミニン(神経組織中に存在する分子でタンパク質と多糖類の複合体)が必要です。特に、ラミニン分子の中で、神経細胞を伸ばす効果をもつ部分(YIGSR、IKVAVなどのペプチド)が知られています。その小さなペプチド分子をチューブの内面に化学結合させることに成功し、神経再生を速める材料を作ることができました。現在、東京医科歯科大学と共同して、作製したキトサン・チューブを医学応用するための研究を進めています。

図1 神経組織再生法

図2 接続から4週後の組織写真






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