生体材料研究
金属系生体材料の開発


材料研究所
生体材料研究チーム
廣本 祥子


 医療用デバイス・人工臓器のうち、金属材料が重要な役割を果たすものとして、硬組織の機能を代替する骨折固定材、人工関節などや、血管、食道などの圧力に抗して狭窄部を拡張するステント、また歯科の各種修復物、矯正用ワイヤー、人工歯根などがあげられます。力学的信頼性の観点から、これらのデバイスの金属を他の材料で代用することはできません。当研究チーム独自で、あるいは他機関と共同で開発を進めている主な材料を図1に示します。当初は整形外科用を主眼に研究を行っていましたが、現在では循環器系疾患治療用、人工臓器用も視野に入れて研究を進めています。
 図1の材料のうち、アモルファス合金について紹介します。アモルファス合金の構造は、原子が規則的に配列した結晶合金と異なり、原子配列に規則性がありません
(図2)。構造・組成とも均質なので、一般に類似組成の結晶性合金よりも耐食性、引張強さが高く、弾性率が低いという特徴があります。したがって生体材料に応用すると、デバイスを小型化しても十分な機械的強度と骨に近い弾性率を期待できます。棒状のZr基アモルファス合金、Ti-6Al-4V合金、316Lステンレス鋼をラット大腿骨に骨折固定用の髄内釘として埋入すると、弾性率の低いアモルファス合金での骨形成量が最も多くなりました(図3)。材料の弾性率が低いと骨へ適度に荷重を分担するので骨形成を促します。摘出後のチタン合金表面ではリン酸カルシウムが、ステンレス鋼では硫化物が観察されたのに対し、アモルファス合金では生成物は確認されませんでした。リン酸カルシウムは骨と材料の接合を強くして、材料摘出を難しくしてしまいます。生成物を生じないアモルファス合金は髄内釘として優れていることが明らかになりました。
 生体安全性とアモルファス合金へのなり易さから生体用アモルファス合金に使用できる元素の組み合わせは制限されています。このような制約の下、生体用チタン基アモルファス合金の開発を進めています。

図1 生体用金属材料の開発

図2 アモルファス合金と結晶性合金

 

 

図3 ラット大腿骨骨折部の骨癒合状態








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