生体材料研究
細胞を利用した材料の生体外評価


材料研究所
生体材料研究チーム
塙 隆夫


 生体材料の生体外での評価は、動物実験に先駆けて、力学的・化学的耐久性、生体安全性、生体組織適合性などを明らかにし、生体環境での材料の性質を予測するために行います。これは、動物実験を削減するために必要な過程です。当研究チームでは、生体疑似環境の耐久性評価技術、安全性および生体適合性評価技術の開発を進めてきました。ここでは、細胞を利用した生体安全性、生体組織適合性評価のための細胞剪断接着力測定装置および細胞存在下電気化学測定装置について紹介します。
 (1)細胞剪断接着力測定装置:材料と細胞の剪断接着力の測定に世界で初めて成功した装置です(図1)。材料上で培養した個々の細胞をマイクロカンティレバー(微小片持ち梁)で材料表面から引き剥がし、その際必要な力を測定します。生体材料は常に体内に埋め込まれて使用されるので、材料表面と細胞のなじみ(接着性)は重要な性質の一つです。様々な金属について調べた結果、チタンやクロムは細胞となじみがよいが、アルミニウムや金はよくないことがわかりました。本装置を用いて色々な材料表面に対する細胞接着性を測ることにより、材料の生体適合性を定量的に評価することが可能となりました。
 (2)細胞存在下電気化学測定装置:金属材料表面で細胞を培養しながら、材料表面での反応を電気化学の手法で定量的に測定するために開発した装置です(図2)。電気化学測定は材料表面での反応を電気抵抗や電気容量の形で求めて材料の耐食性を評価する方法です。生体用金属材料の評価は生理食塩水や細胞培養液中で行われています。一方、生体材料は生体組織つまり細胞と直接接して使用されるので、細胞の代謝産物や細胞の存在が材料表面の反応に及ぼす影響を考慮する必要があります。純Tiを用いた測定から、表面に細胞が存在すると、材料-環境間の物質拡散が抑制される可能性を明らかにすることができました。

図1 細胞剪断接着力測定装置



図2 細胞存在下電気化学測定装置






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