環境ホルモン除去用磁気分離技術の開発
−超伝導による環境浄化を目指して−


材料研究所
強磁場研究グループ
小原 健司


 超伝導マルチコアプロジェクトでは、高温酸化物超伝導体を用いた磁気分離システムの研究開発を行っています。その中で、特殊な表面処理を施した磁性微粒子を利用して排水中などの内分泌かく乱物質(環境ホルモン)を分離する技術を開発しました。
環境ホルモン除去法には従来の活性炭法や樹脂法がありますが、大量処理が難しく、使用済み二次廃棄物が多い難点があります。
 これに対して、多くの環境ホルモンは疎水性を持ち、溶媒が水系で吸着剤が疎水性であれば、吸着剤に吸着します。この疎水性相互作用を利用する目的で強磁性マグネタイト粒子表面に、炭素が18個並んだオクタデシルトリクロロシラン化合物を化学結合させ、疎水性を与えました(図1)。
 この疎水化マグネタイトは、粒径が数十ナノメータと小さく単位量当たりの吸着表面積が広いことと、水中での分散性も良好で固まらないので、大量処理に適します。
 吸着した環境ホルモンは、粒子をアルコール等の有機溶媒で洗うと、オクタデシル基から簡単に溶離します。すなわちマグネタイトは再利用でき、二次廃棄物がほとんど生じません(図2)。
 実験は環境ホルモン・ビスフェノールAを2.7ppm含む水溶液200mLに1gの疎水化マグネタイトを添加しました。この溶液からマグネタイト粒子を磁気分離し、残った溶液を高速液体クロマトグラフィー
(HPLC)で定量すると、ビスフェノールA濃度は1/10以下の0.2ppmに減少しました。更に磁気分離を2回行うと、1/100まで減少することも確認しました。
 ビスフェノールA吸着マグネタイトを有機溶媒で洗浄した後、磁気分離し、残った液をHPLCで分析しました。高濃度のビスフェノールAが検出され、マグネタイトからの脱離が確認できました。吸着・洗浄を5〜6回くり返し、吸着能力が低下しないことも確認しました。
 今回の技術には、活性炭に比肩する大きな吸着能力と、活性炭では困難な繰り返し利用による二次廃棄物低減という特長があります。また、高温酸化物超伝導体の磁石を用いて、大きな空間に強い磁場を発生できることから、大量の溶液を高速処理することが可能です。今後は、磁性体粒子と超伝導磁石の最適化を図る予定です。

図1 疎水化マグネタイト粒子への環境ホルモン吸着原理

図2 環境ホルモン浄化システム




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