MgB2新超伝導体の線材作製法を開発
−簡便な方法で最高の臨界電流密度を達成−


材料研究所
エネルギー変換材料研究グループ
熊倉 浩明


 MgB2は金属系超伝導体の中では飛び抜けて高い超伝導遷移温度を有し、応用上有望であると考えられ、世界中で超伝導応用の要となる線材化の研究が進められています。当機構では、金属管に粉末を詰め込んで線材に加工する、パウダー・イン・チューブ法により線材化の研究を進めておりますが(NIMS NOW6月号参照)、今回ステンレス管ならびに銅−ニッケル合金(キュープロニッケル)管を使用して高い特性を有する線材の作製に成功しました。
 MgB2粉末をこれらの金属管に詰め込んで封をし、ワイヤーやテープに加工します。またこの方法では、加工した線を束ねてもう一度金属管に詰め、さらに加工を繰り返して線にし、実用上有利な多芯線材を作製することも容易です。図1に、キュープロニッケル管を使用して作製した多芯(7芯)線材、ならびにステンレス管を使用して作製した単芯テープ材の断面を示します。これらの線材について、熱処理をすることなしに、そのまま液体ヘリウム(4.2K)の温度において、実用的に最も重要な特性である単位断面積あたりに流せる最大の超伝導電流(臨界電流密度:Jc)を測定しました。結果を図2に示します。ステンレス管を用いたテープにおいては、5テスラの磁界中で12,000A/cm2のJc値が得られ、また磁化測定から評価したJcを参考にして、図のデータからゼロ磁界に外挿したJcは45万A/cm2に達します。このJc特性は、MgB2線材としてはこれまでの世界最高レベルの値であり、MgB2の実用化へ向けての大きな進歩ということができます。一方、キュープロニッケル管を用いた多芯ワイヤーでは、ゼロ磁界で31,000A/cm2のJcが得られました。ステンレス管を用いたテープで高いJcが得られた理由は、ステンレスはキュープロニッケルに比べて硬い材料であるため、加工によってそれだけMgB2粉末に大きな圧力がかかり、線材中のMgB2粉末の充填率が上がったためと考えられます。
 今回の線材作製法の特長は、これまでの超伝導線材の作製においては必ず必要であった熱処理が不要なことです。したがって線材製造コストがこれまでの方法に比べて大幅に低減できると期待されます。ただし今回得られたMgB2線材のJcは、実用的には十分というわけではありません。今後は製法の最適化などにより、さらに高いJcを目指して研究を続けて行きます。

図1 多芯(7芯)ワイヤー(Cu-Ni合金管を使用)ならびに単芯テープ(ステンレススチール管を使用)の断面写真 図2 MgB2テープならびにワイヤーの4.2Kにおける臨界電流密度の磁界依存性



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