特集:新しい超伝導体MgB2
MgB
2の超伝導線材の試作

材料研究所
エネルギー変換材料研究グループ
熊倉 浩明


 MgB2は金属系超伝導体のなかでは飛びぬけて高い超伝導遷移温度Tcを示すだけではなく、線材化に際して酸化物超伝導体のように結晶粒の向きをそろえる必要が無いこと、線材作製が比較的容易なこと、原料の価格が低いこと、など、多くの利点を有し、実用化に大きな期待がもたれています。超伝導線材においては、線材単位断面積あたりに、最大でどれだけの超伝導電流(臨界電流密度という)を流すことができるかが、実用的に最も重要であり、この臨界電流密度Jcを高めるための研究が世界中で行われています。
 当グループでは、金属管に原料粉末を詰め込んで線材に加工する、パウダー・イン・チューブ法により線材化の研究を進めています。この方法では、金属管として何を使うかがポイントとなりますが、我々はタンタル管を使うことにより、高いJcを実現しています。タンタル管にMgとBの粉末を1:2の組成で詰め込んで封をし、溝ロール圧延やダイスによる線引きにより、ワイヤーに加工します。一部のワイヤーについては、さらに平ロールで圧延加工を行い、テープを作製しました。この方法では、加工した線を束ねてもう一度金属管に詰め、さらに加工を繰り返して線に加工し、実用的な多芯線材を作製することも容易です。これらのテープやワイヤーを900℃で2時間、アルゴン雰囲気中で熱処理しました。図1に、テープの断面写真を示します。これらの線材について、Jcを測定した結果を図2に示します。液体ヘリウム温度(4.2K)、ゼロ磁界のJcはほぼ20万アンペア/cm2で、MgB2線材としては最高レベルの値となっています。しかしながら図に示したJcは、実用的には決して十分な値ではなく、さらにJcを向上させる必要があります。このテープ材におけるMgB2の充填率はまだ100%には達しておらず、従ってJcを上げる一つの方法は充填率を上げることです。また図からわかるように、Jcの磁界依存性が大きく、5テスラの磁界中ではJcは大幅に低下してしまいます。この傾向は現在作製されているすべてのMgB2線材に言えることで、原因としては磁界中でMgB2を貫いている磁束線の動きを押さえるピン止め点の少ないことがあげられます。したがって今後はMgB2の充填率を上げるとともに、ピン止め点を導入して磁界中のJcを向上させる必要があり、今後はこれらの研究を進めていきます。




図1 パウダー・イン・チューブ法により
作製したMgB2テープの断面

 

図2 パウダー・イン・チューブ法により
作製したMgB2テープの臨界電流密度






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