特集:新しい超伝導体MgB2
MgB
2の等電荷的および
関連物質における超伝導の探索


物質研究所
ホウ化物研究グループ
森 孝雄


 応用面や現象解明の意義深さにより、これまで世界中でMgB2自身に手を加えて超伝導転移温度を上げようという様々な試みがなされましたが、それに成功した例は一つもありません。そこで異なった切り口として、MgB2の超伝導機構において電子・フォノン相互作用がやはり重要であることが分かって来たので、MgB2を母体とせず、Mgより軽元素を構成要素とする関連物質における超伝導の探索を行いました。これから取り上げる物質はMgB2と同様に昔から知られており、ホウ炭化物に関しては伝導があまり良くないという報告も当時ありましたが、MgB2で超伝導が発見された以上は、良質の試料を合成し、低磁場の磁化測定をとおして超伝導の存在を検証する強い動機があります。また、最後に取り上げますが、ドーピングによる物性制御で今後の展開がとても期待されるものがあります。
 はじめに、Mgと同じIIA族で軽いBeB2に注目しましたが、"BeB2"は実際にはAl0.06BeB3.05構造というMgB2とは全く異なった構造の化合物しか存在しないのではないかということが最近分かって来ました。いずれにしても、"BeB2"を合成測定した結果、それが1.8Kに至るまで超伝導を示さないことを確認しました。
 一方で、金属ホウ炭化物がしばしばBとCがネット構造を形成することに着目しました。その中のLiBCとMgB2C2を、封じ切ったタンタル容器中のいわゆる"closed environment"下で合成することに成功しました。LiBCの構造は図のように、MgB2と比較すると“亀の甲”のBが、B:C=1:1とCに置き換わった以外は全く同じで、しかも等電荷的な化合物で興味が持たれます。MgB2C2もB/C面を持ち、MgB2と比べて“亀の甲”の上に金属原子がいない空の位置があるのが特徴です。
 測定の結果は、いずれの化合物においても1.8Kに至るまで超伝導は観測されませんでした。図のLiBCの磁化率を見ても、低温で常磁性的です。これらの結果は、実は極最近の理論計算の結果と一致しており、電子の充填が超伝導発現に理想的でないことに原因が考えられます。しかし今後の展開としては、今回合成し、測定したLiBC・MgB2C2共に、理論的にはホールをドープすることで、高温での超伝導が発現することが期待されます。MgB2C2の場合は、ホールドープは、Mgを1価のアルカリ金属で置換することで実現でき、現在そのような化合物の合成・実現が進行中です。

図 LiBCの構造(左)、X線回折像(右上)と磁化率(右下)






トップページへ