特集:新しい超伝導体MgB2
MgB
2単結晶育成と超伝導特性の異方性

ナノマテリアル研究所
ナノ物性研究グループ
北澤 英明


 MgB2の高い超伝導転移温度Tcのメカニズムを実験的に明らかにするために、現在、良質な単結晶を使った精密な研究が急がれています。しかしながら、2元状態図によると、融点が低く、蒸気圧の高いMgと融点の高いBとの2元化合物のため、通常の液相からの結晶成長は困難を極めるものと想像され、事実、これまで単結晶の報告例はありませんでした。幸いにも我々のグループでは、これまで蒸気圧が高くかつ、高融点の材料を扱って来ました。この技術を生かして、高融点金属であるMo(モリブデン)坩堝の中に全ての材料を高真空中で封じ込め、適当な温度勾配の中で気相から単結晶育成を試み、世界で初めて最大約0.5×0.5×0.02 mm3の単結晶育成に成功しました。図1は、得られた板状の単結晶のSEM写真です。EPMA法及び、X線によりMgB2の単結晶であることが確認されました。また、電気抵抗(図2)及び帯磁率測定により、Tc=38.5Kであり、単結晶全体が超伝導を示していることを確認しました。図2の挿入図に示すように、磁場をc軸方向に比べて、ab面内に印加した場合の方が、超伝導を壊すのに2.6倍大きな磁場(上部臨界磁場:Hc2)を必要とすることがわかりました。これから銅酸化物高温超伝導体に比べるとMgB2で観測されたHc2の異方性はそれほど大きくはなく、超伝導の2次元性はそれほど顕著ではないと予想されます。従って、多結晶試料を用いた超伝導線材の実用化にとって、超伝導の異方性に起因する超伝導特性のばらつきが少ないことは、非常に大きなメリットであると考えられます。

図1 MgB2単結晶のSEM写真

図2 MgB2単結晶の電気抵抗の温度変化. 挿入図は、0Tから
   9Tまで1Tの間隔で磁場を増加させた時の電気抵抗






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