(i) コロイド粒子の電気泳動現象を利用したセラミックス成形プロセス

形状加工した耐火物を導電性高分子(ポリピロール)で被覆し基材に直接使用した例。粒子堆積後に基材との一体焼成が 可能で、歯冠材料など複雑形状部材の作製に適用可能な技術です。
J. Am. Ceram. Soc., 91[5], 1674-77 (2008)

電気泳動法によるサイアロン蛍光体粒子の膜実装例。 ITOガラス上に積層した 黄、緑、赤のサイアロン蛍光体を青色光で励起し、演色性の高い発光特性を実現しています。
J. Ceram. Soc. Jpn., [1], 1-4 (2010)

直径が10-7~10-9 m程度の大きさの粒子が気体や液体に分散している状態をコロイドといいます。 液中のコロイド粒子は、溶質の分子やイオンより大きく、また常に帯電しているため、ブラウン運動、 チンダル現象、透析、電気泳動などの特有な性質を有し、凝析や塩析などの現象を示します。サブミク ロン~ナノサイズのセラミックスの粒子も、水や非水溶媒などの液体に分散すると、こうしたコロイド 粒子と全く同じ性質を示します。私たちは、液中で帯電したコロイド粒子の電気泳動現象を、セラミッ クスの製膜に応用するプロセスの研究をしています。液中における帯電粒子は、電場のポテンシャル勾 配に依存した振る舞いを示します。セラミックス粒子の懸濁液に電場を印加すると、粒子は液体で満た された空間を泳動し、粒子のチャージと極性が逆の電極表面に堆積します。このような方法で堆積した 粒子堆積層は、200MPaの等方静水圧成形に匹敵するかそれ以上の成形密度を有し、プレス成形で得られ る固化成形体より低温の焼成で緻密化が可能です。また、膜厚の制御された積層体の作製も容易です。

電気泳動プロセスに適したサスペンションの調製、非導電性基材上への粒子堆積、DCパルスによる水系 サスペンションの電解抑制などの技術により、従来は適用が困難だった分野へも電気泳動プロセスの応 用は広がっています。また最近では、強磁場を用いた磁場配向技術と電気泳動プロセスを結び付けるこ とにより、結晶方位の制御されたセラミックス配向膜や配向積層コンポジットの作製にも成功していま す。私たちは、液中のコロイド粒子を電場や磁場で操り、目的や用途に応じた成形体組織微構造の設計、 制御を行なって、燃料極支持型燃料電池セル、色素増感太陽電池の光電極、光触媒膜、熱電モジュールな どの環境・エネルギー関連材料、歯冠材などの医用材料、セラミックスべニアなどの構造材料など、様々 なセラミックス材料の高機能化、多機能化を進めています。