Environmental load data for 4000 social stocksのデータ算定方法

 

本データベースの使用に際して、計算方法や基礎となったデータを明らかにして欲しいとの問い合わせが多く寄せられました。計算の概略は、未踏科学技術協会調査報告書 「材料の環境負荷と使用性能の総合評価」(1997)の中に載せられていますが、直接入手できない方のために、以下に関連部分の内容を示します。

 

 

このデータベースは約4000項目にわたる品目に対して、その直接・間接に生産に関わる工程を通じてのCO2,SOx,NOxの大気汚染物質およびBOD,COD,縣濁物質,窒素分,燐分の水質汚濁物質の単位生産量もしくは価格当たりの代表推定値と上方推定値を与え、さらに、これらの生産の過程で原料や補助物質として使用された塩素分、アンモニア分、金属分、化学物質、無機物質、環状有機物、芳香族などの総量の推定値を得ることができ、物質やサービスに伴ってトランスポートされうる有毒性の物質の上限値を推定することができる。以下に、推算方法などを紹介しておく。

 

  1. 大気汚染物質量の推定

大気汚染物質量の推定は、以下の手順で行われている。

    1. 石油等消費構造統計による各産業分野毎単位生産額あたりの原料用以外の燃料消費量の計算
    2. 産業連関表による硫黄、石膏、石灰、硫化物鉱石など燃料以外の発生原料の各産業分野への持ち込み量、固定量の算定
    3. 排出係数と燃料消費によるCO2,SOx,NOx発生量の算定と固定分の除去
    4. 工業統計に基く品目と産業分野の関連付け
    5. 産業連関表を用いた誘発部分の積算
    6. 産業連関表の部門品目別国内生産額表をもちいた細品目までの拡張

である。

このなかで、@からDは基本的には産業連関表に基くCO2発生量の計算の手法と同様であるが、SOxおよびNOxも対象としたため、ボイラー、直接加熱など炉の種類やAに挙げられているように原料としての持ち込みや副産物として固定除去も考慮の対象とされている。

また、産業連関表の計算では400項目程度の産業部門しか分解能が無いため、部門品目別国内精算額表を用いて4000近くの細品目までの拡張を行なっている。その際、産業部門の細分化は「同一産業部門の中では、環境負荷は製品価格と比例関係にある」との粗い近似関係を想定しており、このEのプロセスで品目ごとの細分化が詳しくなり使いやすくなる一方で、従来の産業連関表に基く環境負荷データのような「計算データ」からクオリティーを犠牲にした「推定データ」へとデータの性格が変わっており、使用の際はその点を念頭においておく必要がある。

 

なお、わかりやすいように前半部分の手順を図にまとめておく。

 

 

  1. 水質汚濁物質量の推定

水質汚濁物質の量を知る事ができる計算方法は未だないため、さまざまな実測データを利用しなければならない。しかし、これらは公表されているものが少なく、全ての分野を覆うことは困難であった。比較的整理されているものとして、八千代エンジニアリングによる調査報告「環境影響評価における原単位の整備に関する調査」の中に日本下水道協会の「流域別下水道整備計画調査 指針と解説」のデータがあり、そのデータは工業統計の分類表に基づいて分野別に分類されている。しかし全ての分野が覆われているわけではなく分野毎の業種の取り方のレベルもまちまちである。しかし未知のデータを統計的に推定にはこのデータベースの類似産業分野の値をリファレンスとして用いることができる。

すなわち、このデータベースに格納される推定データは、「環境影響評価における原単位の整備に関する調査」のデータに基き、データの欠落している領域は統計的処理をして類似産業分野の値から類推した値である。

産業コードは

 ● 大分類二桁コード 鉄鋼業、非鉄金属製造業、一般機械幾具製造業など

 ● 中分類三桁コード 表面処理鋼材製造業、銑鉄鋳物製造業など

に別れた階層的構造になっており、窯業部門におけるBODの例をとるならば、次の表のように、データの存在している業種と欠落業種の参照関係は単一なものではない。

表2.4.1工業統計を用いた類似部門からの水質汚濁値(BOD)の類推の例

工業

統計

   

BOD

       

産業連関表

産業

データ

平均

大平均

 

列コード

部門名

25

   

窯業土石

   

35.6

C

   
 

252

 

セメント製品

 

25.2

B

252301

セメント製品

   

2521

セメント

69

A

252101

セメント

   

2522

生コンクリート

2

A

252201

生コンクリート

 

253

 

建設用粘土

 

16

B

   
               

259902

建設用土石

   

2531

粘土かわら

15

A

   
   

2532

普通レンガ

   

16

B

   

 

255

 

耐火物

   

35.6

C

259901

耐火物

   

2551

耐火レンガ

   

35.6

C

   

 

具体的には、小分類の「セメント」「生コンクリート」「粘土かわら」はその業界の平均が与えられており、代表値としてはその値を用いることができる。しかし、同じ小分類の「普通レンガ」や「耐火レンガ」は該当するデータが存在しておらず、他の項目から類推するしかない。幸いにも「普通レンガ」は同じ中項目の中に「粘土かわら」などの値が与えられている項目があり、それらをもとに「建設用粘土」という中項目での平均値の16が推定され、「普通レンガ」も他の産業よりはこの中項目のほうが類似性が強いと考えられるから、その平均値を代表値として用いることができる。

この場合、「粘土かわら」と「普通レンガ」では代表値がそれぞれ1516と近い値となっているがその信頼性は大きく異なっている。しかし信頼性が劣るからといって「普通レンガ」に数値を与えなければゼロとみなされる恐れもあり、何らかの数値を与える必要がある。その最も近いものとして工業統計の分類的に上位のグループの平均値を用い、信頼性の程度を表現できるものとして新たに後述の「上方推定値」を導入し、それらを併用することにより実測結果に近い部分と類推性の強い部分を区別できるようにしたものである。

また、この水質汚濁物質に関する産業別の結果も、大気汚染物質と同様に産業連関表を用いることにより誘発分も含めた形で計算され、さらに、「価格比例」の近似を用いて細目毎に別れた値として提供されている。手順をまとめると

    1. 「環境影響評価における原単位の整備に関する調査」中の日本下水道協会「流域別下水道整備計画調査」の結果に基づく産業分類毎の価格当たりの原単位の整理
    2. 欠落した産業分類に対する上位グループの平均値からの類推
    3. 類推の際のグループの階層の深さから上方推定値を与える
    4. 産業連関表を用いた誘発分を含む積算
    5. 部門品目別国内生産額表をもちいた細品目までの拡張

となっている。

 

    1. 代表推定値と上方推定値

一般のデータベースでは一つの品目に対する一つの環境負荷項目の値は一つしか与えられていないが、ここでは、代表推定値と上方推定値の二つが与えられている。代表推定値は通常のデータベースでの代表値に相当する値であり、下記に述べる方法で計算されたり類推された数値である。「上方推定値」はデータクオリティーの定量的かつ加算可能な表現方法として第2回エコバランス国際会議の中で提案された考え方に基づくものである。

この基本には環境負荷データは一定値に決まるものではないということがある。 その具体的な例は1995年度の未踏科学技術協会の報告書にあげられており、伸銅プロセスの水質汚濁データをもとに、同一プロセスでもどの程度データにばらつきが出るものかが検討され、幹葉表示および対数正規分布を用いて統計的に解析している。図の幹葉表示とは一種のヒストグラムと考えてよく、縦に(幹に)最大桁の数字をとり、葉(横)に次位の数字を該当する最大位の数字の蘭に並べていく方法であり、数字の並んでいる形を一種の棒グラフと考えると分布状態を比較的わかりやすく表現することができ、箱型図および対数正規分布のσ範囲としてあつかえることが示してある。

この統計的な考えに基き、ある値以下にデータの存在する確立が約85%(幾何標準偏差の場合は84.6%)となる値として、幾何標準偏差やヒンジ値を用いて表現しようとするのが「上方推定値」である。すなわち、この「上方推定値」の値より以下に環境負荷値が存在する確率が約85%である、ということを意味している。この表現方法は標準偏差や幾何標準偏差、分散などを用いる場合と異なって環境負荷値と同一のディメンジョンを持つため、LCAの環境負荷と同様の加算性を確保することが出来る性格のものである。

 

  1. 関連物質量の推定

environmental load of 4000 social stocksのもう一つの特徴は、NH4,Cl,SO4,金属分、無機物、芳香族化合物、脂肪族化合物、環状化合物、その他有機化合物、その他化学物質の数値が与えられている点である。ただしこれらの値は、直接環境負荷として環境に放出されているものではない。ここで与えられている数値は生産工程を通じて投入されたこれらの物質の総和であり、それらが全て最終製品に持ち込まれた場合に最終製品の中にトランスポートされうる物質量の最大の値を見積もったものである。

例えば金属分をとると、その製品を製造するために通過するプロセスで、この数値の金属類が投入されており、それが全て製品の中に取り込まれかつ廃棄などの段階で全て放出されるとした最悪のケースを想定しても、ほぼこの数値以上にはなり得ないという値ととることができる。

この数値は、

    1. 産業連関表から個々の部門に対し上記対象物質を明らかに含む製品の投入の抽出
    2. 産業連関表による誘発分の計算
    3. 部門製品別国内精算額表による細目までの拡張

の手順で得られたものである。

 

このenvironmental load of4000 social stocksの代表推定値と上方推定値は、予備的LCAとして、「より精密なデータ取得を要する領域を明確化する」ために用い、漸次より代表値に近い上方推定値へとデータソースを入れ替えていく使い方に用いるのが好ましい。

上方推定値を併記するだけで実質代表値によってLCAを行なったのでは、上方推定値の存在は、何の意味も無いばかりかいいかげんな値を出す一種の免罪符にもなり兼ねない。その使用方法として、Preliminary LCAが提案されている。これは、データの推定という問題のみならず、これまでLCAを科学的手法として確立する観点と他方で製品の環境負荷評価技術としてLCAへの期待は大きく実践的解答を必要としているという事実をともに充たし、「インベントリーの煩雑さの克服」を克服する、科学性を損なわない範囲での簡便化の方法の方向でもある。

この方法の基本は、

  1. 本データベースや産業連関分析などの工業統計や推算等に基づく粗い範疇分けや粗い精度で予備的なLCAを行ない、
  2. その結果の上方推定値に対するdominant分析で影響の大きな項目を抽出、
  3. 影響の大きな項目に対して範疇の細分化やより精密なデータ収集でデータ精度の改善
  4. 再度そのLCA結果の上方推定値のdominant分析、
  5. さらにB、Cを繰り返す、という手順でより精密なLCAに近づけていく。

しかもdominant分析を環境負荷の代表値に対してではなく上方推定値に対して行うことでデータ精度の改善の評価も同時に行うことができるということである。

この方法を冷蔵庫のLCAに適用した場合をCO2を例にとってに示しておく。

冷蔵庫の構成要素はまず粗く、紙,HFC,プラスチック,油分,鉄,非鉄金属に分け、その製造に伴うCO2発生量がリストアップされる。ここで非鉄金属の上方推定値(左下)が大きいので非鉄金属をより細かく調べる(中央)。さらにプラスチックと鉄が大きいので細分化していく(右)。このように詳しいデータを必要とする項目を明確にしながらより精密なLCAとしていくことができ、LCAの煩雑なデータ収集を効率化できる。これは逆に見ると上方推定値で見ても無視可能なデータは無理して精度をあげる必要はないということを意味しており、たとえ代表値で見て小さくても上方推定値で大きければその分野でより精度の高いデータを取得してデータの精度を上げる意味がある、ということである。この“ Environmental load of 4000 social stocks ”はその出発のデータとして用いるならば有効であろう。

 

参考資料

1992年 石油等消費構造統計 通商産業省大臣官房統計調査部

1992年 工業統計表(品目編)通商産業省大臣官房統計調査部

1990年 産業連関表 総務庁

1991年 環境庁委託調査報告 環境影響評価における原単位の整備に関する調査 八千代エンジニアリング株式会社

原本 流域別下水道整備計画調査 指針と解説 日本下水同協会(1992)

元の元 工業統計(昭和63年 用水編)および 昭和63年環境庁調査 業種別平均水質

窒素酸化物規制マニュアル 環境庁

アジアのエネルギー利用と地球環境 科学技術庁科学技術政策研究所 (1992)