材料のフォト・ストーリー「さび」
さびにこれほど多彩な表情があると想像したことがあっただろうか。
さびが生じる条件、酸素と水にどのように触れたかで、同じ金属に生じるさびも多種多様に変化する。自然が創りだす一点もののアート。
白い綿のようなものは、亜鉛についたさび。さびの色は、母材となる素材によって異なる。一般的なさびのイメージである茶色や黒は、主に鉄のさび。「緑青(ろくしょう)」と呼ばれる銅のさびは、緑色をしている。
一つの素材につくさびは一色ではない。鉄だけでも主に4色。黄・赤茶・茶・黒など、結晶構造の違いが色をつくる。これらの色が複雑に混ざり合い、味のある独特の「さび色」をつくり出す。
“劣化”のイメージを持つさび。しかし、それは”人間にとって”のもの。鉄にとっては、さびているのが“素”の状態。製鉄の過程で除かれた酸素を取り戻し、安定した元の姿に戻ろうとする。それが「さび」の仕組み。
さびが止められないならば、逆にこれを利用できないか?あえて表面に特別なさびを作り、内部の金属を守るのが「耐候性鋼」。表面に緻密なさびの層をつくり、母材が空気と水に触れるのを防ぐ。ペンキの塗り替えが不要な維持費の低い材料として国内の橋の3割に使用されている。
まったく異なる2つのさび。(左)海岸地帯で5年、(右)田園地帯で35年。
同じ素材でも、置かれた環境によって大きくかわる。
NIMSでは、つくば、銚子、宮古島の3地点にある「暴露試験場」で10年間、材料を大気に曝し、異なる環境条件下でのさび方や進み具合を日々観測している。
20年間以上にわたり、さびを見つめ続けている田原研究員。日々集められたデータは「腐食データシート」として定期的に公開し、新しい鋼材や構造物をつくる際のデータとして役立てられている。
100年、200年もつ橋を。
NIMSはこれからも、安全な未来をつくるために、さびを見つめ続ける。