材料が未来をつくる

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私たちの文明は材料の進歩とともに発展してきました。

石や土のような、身のまわりにある自然物を利用して道具を作っていた石器時代や土器の時代。やがて私たちは土や石のなかに混じっている金属をとりだして使うことを覚え、青銅器の時代を経て鉄器時代をむかえます。鉄は、私たちのまわりにどこにでもあるありふれた金属で、使いやすく、丈夫な材料でした。そのため、いまでも材料の中心として大量に使われ続けています。

そんな鉄ですが、さびやすかったり重かったり、材料としていくつか欠点もあります。その欠点をおぎなうために私たちは様々な工夫をし、鉄に炭素や他の金属を加えて強化した鋼や合金を作りました。こうした材料の進歩と、蒸気機関などの発明が一緒になって、イギリスをはじめ世界各地に産業革命が起こり、私たちは機械文明の時代を迎えることになります。

船、鉄道、ビル、発電所、さらには自動車や航空機まで、数多くの機械や建築物を大量に生産しながら、機械文明は発達を続けます。鉄のほかに、アルミニウム、チタン、ニッケルなどの合金が用途に応じて利用されます。金属は、材料の王様であり続けました。

ナイロンが絹に変わる靴下の材料として使われるようになると、プラスチックが新しい材料として注目を浴びるようになりました。石炭や石油からとれる、軽くてやわらかい有機材料であるプラスチックは、生活用品に革命をもたらす存在となったのです。

一方、セメントやコンクリートの材料でしかなかった土や石、無機材料にも新たな見直しがされるようになります。「材料」としてのセラミックの再発見です。コンピュータの進歩普及によって必要不可欠になった半導体。その材料は土の主な成分であるシリコンです。宇宙からの帰還に耐えられる超高温材料もセラミック。高温超伝導材料を生み出した特殊な酸化物もセラミック。そして、包丁をはじめ、かたさと耐熱性を生かして、セラミックは台所用品の中にもたくさん入り込んでいます。

金属、プラスチック(有機物)、セラミック(無機物)は、私たちの生活を変える材料の三つの柱です。しかし、文明がすすみ、機械や道具が進歩すればするほど、新しい材料が必要になってきます。そうした要求にこたえて、現在では革新的な材料がつぎつぎと開発されています。

その材料研究の中心的な役割を果たすのが、とても小さな世界を扱うナノテクノロジーです。1ミリの1万分の1、10万分の1といった微細な粒子を作り出す技術は、化粧品や医薬品、さらには研磨剤などの性能を飛躍的に高めました。グラフェンや、日本の飯島澄男博士が発見したカーボンナノチューブなどは、炭素化合物材料としてこれからの応用が大いに注目されています。

白熱電灯や蛍光灯にかわるLEDも、ナノテクの生んだたまものですし、超伝導材料や生体材料も、新しいものが次々と生み出されています。原子や分子を自在にあやつり、革新的な材料を生み出すことによって、材料自身にさまざまな機能を持たせる時代がやってきているのです。

(文 えとりあきお)