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山下 侑 Yu Yamashita
32歳:東京都出身
ナノアーキテクトニクス材料研究センター ナノ材料分野 超分子グループ 研究員

「U-35」とは?
博士の学位取得後8年未満の研究者を支援する「科学研究費助成事業(科研費)・若手研究」の応募資格者(おおよそ35歳以下)を対象に、NIMSで活躍する研究者やエンジニアおよび、その研究を支える事務職員をご紹介します。

簡単なプロセスで作製できる高機能な半導体の研究をしています。半導体は、ディスプレイや通信機器、太陽電池など、私たちの身近にある様々な電子デバイスに使われています。今、主流のシリコン半導体は、作製する際に高い温度や真空など特殊な環境が必要ですが、私は軽量で柔軟な有機物を使って、インクジェット印刷など簡便かつ低コストで作製できる、新しい「有機物半導体」の開発を目指しています。

幼い頃は、缶蹴りやトランプなど、ちょっと頭を使うような遊びが好きでした。ゲームも『ファイナルファンタジー』とか、考えながら進めるRPGをよくやっていましたね。また、体があまり強くなかったこともあって、スタミナをつけるために幼稚園から高校まで水泳を続けていました。遊びでもスポーツでも、集中すると周りの声が聞こえなくなってしまって、今も研究に没頭すると同じような感じになるので、その頃から変わっていませんね(笑)。勉強も好きでしたが、大学に進学しても、最初の頃は「将来は研究者」とは思っていませんでした。今の研究に興味を持ったきっかけは、2年生の時に書いた『有機半導体を使って、軽量で大面積を作れる太陽電池』というレポートです。分子の材料で機能を生み出す、ということにすごく興味が湧きました。そして、本格的に熱中し始めたのは、4年生になって竹谷純一先生(東京大学教授・NIMS招聘研究員)の研究室に入ってからですね。これは続けたい、と思い、博士課程まで進みました。

山下侑

電極を作製するための装置。「有機半導体の伝導特性の評価やデバイス作製を行っています。評価をフィードバックして合成に生かす、というサイクルを繰り返して性能を向上させていきます」。

有機半導体で世界トップクラスを行く竹谷研究室での実験は、とにかく面白かったですね。自分のアイディアを実現していくのが楽しかったし、専門だった化学だけでなく、電気伝導や物性など異分野に触れる機会も多くて、そのとき学んだ知識が今の研究にもとても役立っています。その頃から、東大とNIMSのクロスアポイント制度で、今の上司である有賀さん(有賀克彦/ナノアーキテクトニクス材料研究センター【MANA】・特命研究員、超分子グループ・グループリーダー)にお世話になっていました。一緒に共同研究をしていく中で、自分の裁量で研究を進められるNIMSの風土はすごく魅力的だと思っていたので、NIMSへの就職も自然な流れでしたね。

山下侑

超分子分野の最先端を走る有賀グループリーダーは、信頼できる頼もしい存在。「いつも『自由にやっていいよ』と言ってくださって、大きな裁量を持たせていただいています。共同研究では、お互い違うバックグランドだからこそ、想像以上のコラボレーションが生まれているんだと思います」。

入所してまだ1年も経っていませんが、すでに充実した研究生活を実感しています。有賀さんの専門は界面化学や超分子、いわゆる化学よりで、一方の私は物理よりなんですが、一見交わらないこの二つを掛け合わせたユニークなプロジェクトを進められるのは、NIMSならではだと思います。また、最近、MANAのカンファレンスに参加したんですが、多くの方から声をかけていただき、新しいテーマも生まれてきています。目の前のことをひとつやると、あれもこれもと多方面に興味が広がって、トピックが尽きることはありませんね。

山下侑

今年10月には自身二度目のNature誌への論文掲載、11月にはプレスリリース発表(下記リンク参照)と着実に実績を積んでいる。「有機半導体のドーピング技術に関する成果なのですが、それまで見過ごされてきた『水』にフォーカスしたことがブレークスルーでした。論文のファーストオーサーである学生と議論しながら、予想通りになっていくのを観察するのは楽しかったですね」

これからも基礎研究は大事にしつつ、社会実装を見据えたアプリケーション開発にも積極的に取り組みたいです。学生の頃から「どうすれば社会問題が解決に向かうんだろう」という思いはずっと持っていて、そこに自分が貢献できるとすれば、やはりマテリアル・サイエンスと結びつけるのが一番だと思うんです。実験の結果をよく観察して、そこからどれだけ情報を得られるか、どれだけ多くの視点を持つことができるか――試行錯誤を楽しみながら、成長していきたいです。

山下侑

「自分の研究をラボの中だけで終わらせずに、実際に社会で使われるフェーズまで持っていきたいです。NIMSはベンチャー事業を後押ししてくれる制度があるので、今後、そういった活動にも挑戦したいですね」。

【関連リンク】

【取材・文】藤原 梨恵(NIMS広報室)
【写真】石川典人