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飯村 壮史 Soshi Iimura
35歳:茨城県出身
電子・光材料研究センター 電子セラミックスグループ 主任研究員

「U-35」とは?
博士の学位取得後8年未満の研究者を支援する「科学研究費助成事業(科研費)・若手研究」の応募資格者(おおよそ35歳以下)を対象に、NIMSで活躍する研究者やエンジニアおよび、その研究を支える事務職員をご紹介します。

水素の陰イオン(H)の高い還元力を活かす技術の開発をしています。鉄は酸化すると錆びてもろくなってしまいますよね。石油や天然ガスも、エネルギーとして利用して酸化すると、二酸化炭素が発生してしまう。でも、Hを使うことによって、それらを戻す――例えば、錆びた金属を元に戻す、二酸化炭素から天然ガスのメタンやメタノールを生成する、ということが可能になります。こうした、酸化とは逆の還元技術を開発し、資源活用への貢献を目指しています。

小学校3年生から、毎日のようにハンドボールに明け暮れていました。高校時代も部活に必死だったので、進学について深く考える機会もなく、大学は「強いて言えば理系」と思っていたくらいで、ましてや研究者になりたいなんて、考えたこともありませんでした。地元を離れ、信州大学の繊維学部に入学したのですが、高3の受験期は勉強してこなかったことを猛烈に後悔していたので、大学では勉強を頑張ろうと思い、色々な授業を受けていました。生物、経済、会計……今考えれば、かなりもがいていましたね(苦笑)。ちょうど多くのITベンチャーが台頭してきた頃で、経済学部への転部も本気で考えました。そんな中、2年生の電磁気学の授業で「材料に光が当たったときに、どんな事が起こるか」という内容の講義があったんです。これは面白いぞ、と。やりたいことを、やっと見つけたなと思いましたね。

飯村壮史

飯村が開発した世界最高のHイオン電導性を示すセラミックス材料「酸水素化ランタン」。「イオン電導性だけ見れば世界一ですが、全体としてはまだまだ至らない点がたくさんあるので、改良の余地は大きいと思っています」。

自分の“好き”を極めたい、そう思って、大学院では東京工業大学の細野 秀雄先生(現・同大栄誉教授、NIMS特別フェロー)の研究室に入り、材料中の酸素をHに置き換え、超伝導を誘起するという現象を研究していました。酸化物中のHは研究している人が少ないので、その分野では自然と先駆者のようになっていったのですが、そのうち、この技術をどうやったら世に役立つ材料として社会に出せるのか、について真剣に考えるようになりました。オリジナルの技術を突き詰めながら、世の中のニーズに答える、そんな材料研究がしたい。そう考えた時に、NIMSしかないと思ったんです。

NIMSは学生時代に谷口さん(谷口尚/NIMS理事)にお世話になっていたこともあり、若いうちから自分の研究に没頭でき、かつ、多くの研究者とフラットな共同研究関係を築ける場所だという事は知っていました。入所してみて、自分の選択は間違っていなかった、そう断言できます。3年目に入りましたが、これまで交流のなかった異分野の研究者の方々との共同研究も始まり、学びと刺激に溢れた日々を過ごせています。大橋さん(大橋直樹/電子・光材料研究センター長)には、研究予算や職員の採用、実験スペースの管理など、研究する上で欠かせない様々な場面でいつも助けられています。良い研究をして、電子・光材料研究センターを盛り上げることで、恩返しをしていきたいですね。

飯村壮史

様々な元素が詰まった実験室の棚。材料設計をする際には、元素周期表を見ながら、各元素の性質を見極めつつ配合を検討しているという。

今の目標は、酸化物材料中に取り込んだHを活かすアプリケーションを見出すこと。Hを使って二酸化炭素から糖を作る植物の光合成のように、小さなエネルギーから有用なものを生成する仕組みを作りたいですね。理想を言えば、社会問題の解決に繋がるような材料や技術の開発がしたいです。材料研究という学問に没頭して、その結果として世の中の一端を担えるような人間になれればいいなと思っています。

飯村壮史

「細野先生は『教科書を書き換えるような基礎研究も、世の中で使われることを意識した応用研究も区別は無く、両方大事』とよく言われていて、NIMS はそのバランスが絶妙だと思います。好きなことをやる、それを極める、そして、極めたことを人のために役立てる――この3つを大切にしています。」

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【取材・文】藤原 梨恵(NIMS広報室)
【写真】石川典人