いろんなものを創造するのが好きなんです / 荏原充宏さん

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荏原 充宏(えばら みつひろ)さん
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)ナノライフ分野 メカノバイオロジーグループ
MANA准主任研究者

動物が好きだった子ども時代

研究者を目指したきっかけは? 子どもの頃からそういった兆しはあったんですか?

小さい頃はとくに理系でもなかったですし、何かになりたいというようなことはあまり考えていなかった気がします。あ、でも、動物がとても好きで、動物番組などは欠かさず観ていましたし、「ムツゴロウ王国で働きたい」と考えていたことはありましたね。実際、2度ほど北海道まで見に行ったことがあります(笑)。そう考えると、やはり「生命」とか、「生きる」ということにその頃から強い興味を持っていたんでしょうね。
それに、テレビでも「途上国へワクチンを」というようなCMが結構流れはじめた頃でしたので、そこから途上国における医療環境などにも興味を持ったというのはあるかもしれません。

いきなり勉強を始めた中学2年

ただ、あまりにも勉強しなさすぎて、本当に成績が悪かったんです。自分でも相当危機感を覚えるレベルだったんでしょうね。で、中学2年のときに、いい先生に出会えて、いきなり勉強の意欲がわきました。ここからの勉強っぷりは自分で言うのもなんですが、多少胸を張れますね。ただ、大学では悪友たちと貧乏旅行ばっかりしていて、またあまり勉強しなくなっちゃったんですけど(笑)。
あ、でももうひとつ胸を張れるのは、剣道を幼稚園から大学に入るまで20年間続けていたことですね。うちは母子家庭だったんですけど、母親がかなり強気な人で(笑)。僕が「剣道は打たれるからイヤだ」と言っても、「じゃあ強くなればいいんじゃないの?」って簡単に言う人だったんです。それで僕も「そっか」って。単純でしたね。それでひたすら剣道はがんばりました。小学生のときは毎年全国大会に出ていましたし、大学では同好会に入っていたんですが、関東大会で優勝したこともあります。NIMSにも剣道部があるみたいですし、今でもやりたいとは思っているんですが……剣道ってやっぱり強くないと打たれるだけなんで楽しくないんですよ(笑)。だからちゃんと練習してからでないと……(汗)。

絵、小説、研究……とにかく作る側でいたい

生命に興味があって、医師を目指さなかったのはなぜでしょう?

僕の大学受験の頃は、エネルギー問題とか環境問題などが取り沙汰され始めた頃でした。でも僕は、あまりピンとこなかった。それ以外にももちろん選択肢はいろいろありましたが、自分にとっていちばん大事なのは何かと考えたときに、健康とか医療とか、そういうもののほうがしっくりきたんですね。ただ惜しむらくは、医学部に入る頭がなかった(笑)。それに、どちらかというと僕自身、何かを「作る」ことに興味があったんです。飛行機で言うと、パイロットではなくて、飛行機を設計することに興味があった、という感じですね。それで工学部に入りました。
「作る」という意味では、本当にいろんなものを創造するのが好きなんです。絵を描くのも好きですし、小説を書くのも好きです。絵本も自分で作ったりします。本当は早く定年して、映画とか作ってみたいと思ってるくらいです(笑)。

私生活は、止まったら死んじゃう回遊魚!?

研究生活において行き詰まったり、ストレスを感じたりすることはありますか?

早稲田にいたときは外研というシステムで東京女子医大に行ったり、卒業後には留学してワシントン大学に行ったりしました。その頃は、誰もが思うことでしょうけど、僕も最先端の医療の研究をしたいと考えていたんです。ですがその後、ビル・ゲイツ財団のプロジェクトに入ったときに、「自分が今までやってきたことは、最先端の良い施設があったからこそできたにすぎないんじゃないか。それでは世界の1%くらいの人にしか貢献できないんじゃないか」と、そう思ってしまったんです。本来、研究は行き詰まりを解決するのが仕事なので日々行き詰まりなんですけど、このときは「だったら自分には何ができるんだろう……」、そう思って、正直、先が見えなくなったような感じがしました。

そのときは何かストレス発散法があったんですか?

そのときは旅行で気分転換しましたね。アメリカのヨセミテとかイエローストーンなどの国立公園を片っ端から巡りました。あと、スポーツ観戦もかなりのストレス解消になりました。NBAのバスケットボールにすごくはまって、ニューヨークとかいろんなところまで追いかけて応援していました。
今でもそういうところは変わってないですね。ここ1、2年はサッカー観戦にはまっています。娘が鹿島アントラーズのサッカー教室に通っていて、その影響で鹿島アントラーズのファンになりまして、毎週末スタジアムのいちばん荒々しい席で(笑)家族で応援しています。NIMSにもアントラーズ応援部、作りたいですね!
もともと家でのんびりするというのが苦手なほうなので、休日は常にどこかに家族と出かけています。泳ぎ続けてないと死んじゃうマグロみたいな感じです。いつかパタっと止まる日が来るのかな(笑)。

月1・絵コンテコンテストとは

医療に対して、いろんな方向から貢献できる材料を開発されてきていますが、発想はどこから得ているのでしょう?

アイデアのもとはふたつあります。ひとつは、医師に知り合いが多いので、「こういうのできないかな?」と言われて作るケース。もうひとつは、定期的にグループの学生さんや若い人たちとアイデアを出し合うこと。実は今、うちの研究室の学生さんたちに、月1回、絵コンテコンテストをやってもらってるんです。僕のすごく好きなジュール・ヴェルヌという作家が、「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉をのこしているんですけど、僕はそれを目標にしているんです。ただ、「こんなのできるかな」と想像しているだけではダメで、たとえ落書きだろうと実際に描いたりして、まず想像を形にすることが大事なんですよね。そうすることで、はじめて自分の想像や妄想が具現化される。僕もいつもスケッチブックを持ち歩いて、思いついたことを描いています。
正直に言うと、工学部の人間が考えることというのは、お医者さんからみたらお遊びの延長に過ぎないようなところがあるんです。あまり実用的なことを考えていないので。でも、想像や妄想は自由です。そして工学部のいいところは、使えようが使えまいが何でも作れちゃうところ。まあほとんどの絵コンテはボツになるんですけどね(笑)。でも、そのなかにひとつでもふたつでもいいものがあれば、実現したいじゃないですか。

ティッシュペーパー1枚で病気を治す

今目指していることを教えてください。

究極的な目標として、ティッシュペーパー1枚で病気を治したりできる、そんな医療材料の開発を目指しています。今僕が作っているものは、布切れの中に抗がん剤が入っていたり、磁性粒子が入っていたりしますが、そうではなくて、その布切れそのものを貼るだけでがん細胞が正常細胞に戻るとか、そういうものを作り出したい。2016年に新しく作ったメカノバイオロジー・グループでは、そういったことに挑戦していきたいと思っています。

未来の科学者たちへ

研究者、科学者を目指している人たちにひと言。

僕の経験から言って、理系が研究者に向いているかどうかは非常に怪しい部分があります(笑)。特に僕の分野では数学が得意である必要はなかったりする。はっきり言って、まったく使わないです(笑)。むしろ英語が得意だったり、あるいは社交的であったりすることが必要なケースが多い。ですから、理系じゃないから科学者に向かないとか、研究者になれないとか考える必要はないと思いますよ。どの教科が得意でも不得意でも、やりたいという気持ちがあるなら、ぜひ研究者を目指してほしいですね。理系でも文章を生業とするライターになったりする方もいますしね。理系が苦手だからといって、早いうちから可能性を狭める必要はないと思います。ただ受験はパスしないといけないので、そこは得意分野を生かしつつ、なんとしてもがんばってください(笑)。

荏原 充宏さん

「月1・絵コンテコンテスト」で学生たちが書き溜めた絵コンテ。この発想の中から、未来を変える新材料が生まれるかもしれない。

(取材・文 田坂 苑子)