[多ホウ化物の単結晶育成]

2002年7月26日更新


 新しい化合物を発見した時、結晶構造を決定し、物性測定を行うために、その化合物の単結晶を育成することは大変重要になってきます。私たちは非酸化物系高融点化合物の単結晶育成に関して、世界でもトップレベルの能力を持っています。2500℃から3000℃を越える融点を持つ希土類六ホウ化物、遷移金属炭化物の単結晶を、フローティングゾーン(FZ)法を用いて育成してきました。
 私たちが新しく発見した多くの希土類多ホウ化物の単結晶育成はどうでしょう。希土類多ホウ化物探索研究のきっかけになった、YB25, YB50に関する相図を下に示します。共に高温で分解してしまい、溶融する事はありません。このような分解化合物には、FZ法のような溶融単結晶育成法を適用することはできません。
Phase Diagram

 多くの場合、B12クラスター多ホウ化物の単結晶はAl, Cuなどの金属をフラックスとした高温溶媒単結晶育成法により、育成されてきました。ただ、この方法で育成した多ホウ化物単結晶は大きくても数mmにしかなりませんでした。
 私たちは、なんとかFZ法を適用して、これら希土類多ホウ化物の大きな単結晶を育成することができないかと考えました。着目したのは、分解温度と溶融温度との差です。その差はYB25で200℃、YB50で250℃に過ぎません。もし、少し融点を下げることができれば、これらは分解することなく溶融するようになるのではないでしょうか。そこで選んだのがSiです。Siはホウ化物に対して、融点を下げる作用をします。YB25, YB50に少量のSiを加え、FZ法単結晶育成を試みることにしました。
 希土類多ホウ化物の融点は2000℃近傍です。半導体ですので、高周波誘導加熱は適当ではありません。FZ法単結晶育成は光集光加熱炉を使用しています。次図に、4Xeランプ・楕円鏡型の集光加熱炉によるFZ法単結晶育成のイメージを示します。対角に配置された4対のXeランプ・楕円鏡を用いるのは、結晶の周りの温度の均一性を良くするためです。集光点のみ温度が上昇し、この部分が熔けて、融帯となります。上方から、この融帯に原料棒を供給し、融帯の下側から、単結晶が引き下げられながら成長してきます。
Image
 さて、Si添加のFZ法単結晶育成ですが、期待どおり、YB50と同一結晶構造のYB44Si1.0単結晶を育成することができました。しかし、YB25の相は、逆にSiの添加で消滅しました。YB50に続いて、REB50、ScB19もSiを添加して、FZ法を用い、単結晶を育成することができました。育成したScB19Siy単結晶の写真を示します。種子結晶を用いていないので、単結晶になっているのは後半部分(写真右側)のみです。
 育成したYB44Si1.0単結晶が、本当にYB50と同一結晶構造を持っているか、確認する必要があります。YB44Si1.0単結晶の粉末X線回折パターンをYB50と比較したのが下の図です。両者が同じパターンを示し、同一構造型に属することが確認できました。


 Sc-B-C三元系では、ScB15C0.8にこのSi添加法を適用することができました。育成できた結晶の組成は、粉末合成のScB15C0.8と異なり、ScB12.7C0.62Si0.08(EPMA測定値)となりました。この結晶は面心立方の結晶構造をとります。興味深いのは、この単結晶育成の過程で、非常に似通った組成の、しかも異なる結晶構造をとる新しい二つの相が見つかったことです。それぞれ、六方晶をとるScB11.7C0.6Si0.04と、斜方晶をとるScB12.8C0.7Si0.004です。
 他方、Siを多く含むREB17.6Si4.6相の単結晶は、Siフラックスから育成できますが、残念ながらFZ法での単結晶育成には成功していません。フラックス法のようなSi溶媒組成を、FZ法の狭い融帯の中で維持するのは難しいようです。


お問い合わせは
物質・材料研究機構
物質研究所ホウ化物グループ
田中高穂まで。

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