| 遷移金属二ホウ化物の表面研究 |
![]() |
![]() |
原子的に清浄な表面を作ることは表面の研究をする上で最初に取り組まなければならない仕事です。鏡のようにきれいに磨いた後で、10-8 Pa(大気圧の13桁下の圧力)台の超高真空のなかで加熱したり、加速した希ガスイオンで叩いて表面を削ったり(イオンボンバード)することによりクリーニングします。表面がきれいになったかどうかは高速電子回折 (RHEED: Refrection high-energy electron diffraction)による原子配列の観察や、オージェ電子分光法 (AES: Auger electron spectroscopy)による元素分析などにより確認します。ここではZrB2は超高真空中の1900℃の繰り返し加熱により、またNbB2はXe+イオンボンバードと1200℃の加熱を交互に繰り返すことにより、それぞれ1×1の(すなわち下地結晶の格子の周期性とおなじ周期の構造を持つ)清浄表面が得られました。右の写真は清浄化されたZrB2(0001)のRHEEDパターンです。
表面の原子の振動を、高分解能電子エネルギー損失分光法 (HREELS: High resolution electron energy loss spectroscopy) を用いて測定しました。量子力学によれば、原子振動のエネルギーのやり取りは振動数のプランク定数倍の単位(エネルギー量子)に限られ、これをフォノンと呼びます。HREELSでは、エネルギーを揃えた電子ビームを物質表面に照射して、反射してきた電子のエネルギーを測定します。物質表面で原子振動を励起した電子は、エネルギー保存則より振動数に応じたエネルギー量子分すなわちフォノンのエネルギーを失うためどれだけのエネルギー損失があったかを測定すれば、振動数を知ることができます。電子は物質と非常に強く相互作用しますので、低速の電子を用いたHREELSは表面に敏感で、表面の数原子層の格子振動を観測することができます。
左の図はZrB2(0001)面のHREELSです。運動量保存則により、検出角度を変えると測定する格子振動の波長が変わります。左図の例のように測定条件を変えて多数のスペクトルを取ることにより、格子振動の波長(波数)と振動数(エネルギー)の関係、すなわちフォノンの分散関係を求めることができます。得られた分散関係をモデル計算と比較することにより、原子の間のバネ定数すなわち結合の強さを知ることができます。詳しくは、T. Aizawa et al. Phys. Rev. B 65, 024303 (2002)をご覧下さい。また、これらの分散関係より、ZrB2(0001)の最表面はZr層、NbB2(0001)の最表面はB層であることがわかりました。
清浄表面をガスに晒すと、ガス分子が表面と相互作用して化学反応を起こします。どのような反応がおこるかを調べて、触媒反応や腐食など表面の関与する化学反応を理解するための基礎的なデータを集めます。右の図はZrB2(0001)を、室温でH2, D2, O2, COに晒した後のHREELSスペクトルです。H2, D2, O2ではそれぞれ1本のロスピークが観察できます。これは、それぞれの分子が解離して、H, D, またはOの原子として表面の対称性の高い位置(おそらくは3回対称ホロウサイトと呼ばれる、表面の金属原子の作る正三角形の中心位置)に吸着していることを示しています。CO吸着ではロスピークが2本出現しますが、1本はO2吸着のときのロスピークと振動数が同じなので、吸着O原子の振動と考えられます。それゆえ結論としては、CO吸着の場合もやはり解離吸着していて、残りの1本のロスピークが吸着C原子の振動であることがわかります。詳しくは、T. Aizawa et al. J. Chem. Phys. 117, 11310 (2002)を御覧下さい。
物質・材料研究機構 物質研究所ホウ化物グループ
相澤 俊