自動車のパワステ、ワイパー、ハイブリッド自動車のモーター、エアコンや 冷蔵庫のコンプレッサー、医療用MRIやPC のハードディスクまで わたしたちの身の回りには、想像以上に多くの磁石が使用されています。 ハードディスクの内部にはデスクを回転させるスピンドルモータ、ヘッドを 高速で動かすアクチュエーター、大容量の磁気情報を蓄えるナノ粒子磁石、 また磁気情報を読みだす磁気抵抗素子など、さまざまな磁性材料が使われて います。 NIMS の磁性材料研究は、強磁性材料の構造をミクロ・ナノ・原子レベルで制御して 磁石の性能を向上させることにより、磁石を使うデバイスの小型化により 電力消費を削減することを目指しています。 磁性材料の高性能・高効率化は環境コスト低減に直結するからです。
本ユニットは第3期中期計画「
省エネ磁性材料
」プロジェクトの推進母体で、それに加えて磁性材料・スピントロニクス材料とその応用に関する機構外プロジェクト、企業との共同研究を実施しています。省エネルギーに大きく貢献する高密度磁気記録 システム、磁気メモリーの開発に必要な磁性材料のナノ構造制御、自動車・ 航空機分野で重要性の高まっている永久磁石材料などのあらゆる磁性材料の開発とそれに 必要な基礎研究を行っています。ユニット内3グループはもとより企業・大学と連携をとりながら、下記のような次世代の磁性材料の開発とその基礎研究を推進しています。
高性能磁石の必要性:
磁石は外部からのエネルギーなしに磁場を発生できるので、発 電機やモータなど電力⇔動力の変換に使われています。 磁石を使わない誘導モータや誘導発電機は大きくなってしま い、電気自動車や風力発電など、小型・軽量・高効率が要求さ れる用途には適していません。これらの電力・動力変換機器に 高性能なネオジム磁石を使うことにより、機器の小型化・高効 率化が可能となり、大きな省エネ効果が期待されます。
ハードディスクに不可欠な磁石:
今や、年間のハードディスクドライブの出荷台数は約6 億台で、 これはテレビやパーソナルコンピュータを遙かに上回っています。 高品位テレビ(HDTV)の録画やコンピュータのデータ保存に 大量に使われているハードディスクドライブ(HDD) のディスク 表面には直径6 nm 程度の磁石粒子が高密度で配向分散していま す。このナノ磁石のS/N 方向を変えることによって、ビットを 記録しています。ハードディスクドライブではこのようなディ スクを高速で回転させ、磁界を感知するヘッドで磁気情報を読 み取るわけですが、このディスクを回転させる超小型のスピン ドルモータとヘッドを動かすボイスコイルモーターにもネオジ ム磁石が使われています。つまり、ネオジム磁石なしでは、ハー ドディスクドライブの高密度化・小型化は全く不可能だったと もいえます。 データストレージに使われるナノ磁石 ハードディスクドライブのディスクで磁気情報を記録するナノ 粒子には、現在Co-Pt-Cr(コバルト・白金・クロム)合金が使 われていますが、現状( 〜700 Gbit/in2) の倍以上の磁気記録を おこなうためには、Co 基合金よりも一桁以上高い結晶磁気異方 性を持つFePt 合金を使ってハードディスクドライブの磁気記録 媒体を作る必要があります。
ハードディスクのヘッドに応用される スピントロニクス:
ハードディスクドライブのヘッドとして使われてきた巨大磁気 抵抗 (GMR) 素子は磁性体層と非磁性体層をナノスケールで積層 した素子で、磁性体の相対的な磁化方向によって電気抵抗が変 化します。この現象の発見により磁性体のスピンの方向で電流 を制御するスピントロニクスと呼ばれる分野が形成され、GMR は発見後僅か10 年でハードディスクの再生磁気ヘッドとして市 場投入されました。 現在のハードディスクドライブのヘッドには小さな磁場変化で 大きな電気抵抗変化の起こるトンネル磁気抵抗素子(TMR) が使 われていますが、HDD の記録密度が2 Tbit/in2 を超えるあたり で、絶縁体を使うTMR 素子では、高電気抵抗のために高速応答 性に対応できなくなると予想されています。そのため、電気抵 抗の低いGMR で高い磁気抵抗出力を得る研究や、全く新しいタ イプの磁気センサーの開発が進められています。
磁石を応用したメモリ、MRAM の可能性:
このようなハードディスクドライブはビット単価が安く、大容 量のデータストレージに適しています。一方、より高速記録再 生の必要なコンピュータのワークメモリでは、コンデンサに電 荷を蓄えて情報を保存するDRAM が広く使われています。 DRAM では電源を切ると電荷が放電によってデータが失われ てしまう(揮発性)ため、現在のコンピュータでは起動時にハー ドディスクドライブからもう一度データを読み込む必要があり ます。 MRAM という新しいメモリでは情報の保存にTMR 素子を使 用します。それにより電源を切ってもデータは磁石により保持 される(不揮発)ことになります。MRAM は素早い起動が可能 なインスタント オン コンピュータのワークメモリとして期待さ れていますが、それだけではありません。将来安価で高容量の MRAM が開発されれば、ハードディスクのようなデータストレー ジにも置き換わる可能性があるのです。MRAM はディスクを高 速回転させる必要がないため、実現すると、IT 分野における膨 大な省電力効果が期待できます。
このように磁性材料ユニットではさまざまな磁性材料からナ ノ構造を構築することにより、磁石特性・軟磁気特性・磁気記 録特性・電子のスピンに依存する伝導特性を最大限に引き出し、 省エネルギーに貢献する材料イノベーションを目指しています。
ユニット長:
宝野和博
磁性材料グループ
グループリーダ
宝野和博
主幹研究員
古林孝夫
主任研究員
高橋有紀子
データストレージ、スピントロニクス、エネルギー・環境分野で用いられる磁性材料ならびにスピントロニクス材料の探索とその応用に関する研究を行っています。具体的には、次世代ハードディスクドライブ(HDD)への応用を目指した熱アシスト磁気記録媒体の開発、HDDの再生ヘッド用磁気センサーへの応用を目指した高感度磁気抵抗素子(CPP-GMR)の開発、高スピン分極率を持つ新規強磁性材料の探索、重希土類元素を使わない高保磁力ネオジム磁石、磁束密度の高い軟磁性材料などの開発に取り組んでいます。
スピントロニクスグループ
グループリーダー
三谷誠司
主任研究員
葛西伸哉
主任研究員
林将光
研究員
介川裕彰
名誉フェロー
猪俣浩一郎
電子の電荷自由度に加えて、スピン自由度を用いた新規エレクトロニクスデバイスを研究する分野は、スピントロニクスと呼ばれています。スピントロニクスデバイスは、現行のHDD読み取りヘッドとして既に実用化されているだけでなく、次世代の高速、低消費電力デバイスとして大きな期待がされています。また、スピントロニクス分野では、金属にかぎらず、半導体、有機物など、多様な材料系を取り扱うのも大きな特徴の一つです。本グループでは、(1)次世代エレクトロニクスデバイスを目指した新規デバイス構造/制御手法の構築と(2)高出力/高性能デバイス構築のための物質・材料探索の二つのテーマを中心として、研究を進めております。
ナノ解析グループ
グループリーダー
大久保忠勝
磁性材料、スピントロニクス素子、半導体デバイスや構造材料などの広範な機能性材料について、SEM-FIB、TEM、3DAP等の手法を相補的に用い、ミクロスケールから原子レベルで組織を解析し、特性発現のメカニズムを解明することにより、材料の機能性向上、新材料、デバイスの開発に寄与する。
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