レーザーアトムプローブ
これまでの3次元アトムプローブ(3DAP)では静電界に数nsの電圧パルスを針状試料(tip)に加えて電界蒸発によって原子のイオン化を行うために、 試料に導電性がなければならないという制約があった。このため、3DAPの応用は圧倒的 に金属材料の解析に関するものである。10-2Ohm·cm程度の高ドープSiや薄い酸化物層の電圧パルスによる解析例は報告されているものの、それ以上の抵抗率の試料の電圧パルスによる解析は不可能と考えられていた。さらに、現在一般的に使われている装置では、観察可能領域が縦横数10nm、深さ数100nm程度が限界であり、デバイス構造の解析にはより広領域の解析能が望まれている。また、実際の解析で最も問題となるのは、実は電界応力による試料の頻繁な破壊である。この事実はアトムプローブユーザー以外には一般に喧伝されていないが、多くの試料、特に転位などの欠陥を大量に含む金属系試料や多層膜などは、電圧パルスによる分析中に頻繁に破壊する。電界によりtip先端にかかる応力は一般的な金属材料の降伏応力以上であり、このため電圧パルスによる分析ではデータ収集までに試料が頻繁に破壊され、試料によっては全く解析できないものもある。
以上の3DAP法の制約はいずれもtip先端からので電界蒸発を利用してアトムプローブ法が可能となるという原理的な制約であるが、これらを克服できる可能性のある方法としてレーザー駆動による3DAP法(レーザーアトムプローブまたはレーザー補助3次元アトムプローブ)が注目されている。これまでの我々を含むいくつかのグループの実験により、パルスレーザーによりtip先端からの電界蒸発をアシストすると、(1)
イオン化の際にエネルギー欠損が無いため、エネルギー補償器無しの直線型アトムプローブであっても、質量分解能の向上が期待できる。(2) その結果、飛行距離を短くできるので、検出器の開広角を従来の20倍以上に広角化できる。(3)
レーザーアシストの分だけ原子の蒸発電界強度を低く抑えられるので、試料破壊の頻度が著しく減少する。(4) レーザー蒸発により、これまで不可能であった半導体の解析が可能になり、絶縁体解析の可能性もある。
図1にレーザーアトムプローブの原理の模式図をしめす。従来装置で用いられていた高電圧パルスの代わりに、
tip先端にフェムト秒レーザーパスルを照射することで電界蒸発のタイマーと同期させて起こさせること以外は
従来型の3次元アトムプローブと同じである。唯一の違いは、先に述べたように基本的にレーザーアシストによる
電界蒸発ではイオンのエネルギーがtipに加えられたDC電圧になるので、イオンにエネルギー欠損が生じない。
このために直線型であっても質量分解能が著しく改善されることから、試料・検出器間距離を短くすることができる。
結果として検出器の開口角を従来型のアトムプローブの20倍程度でできることが大きなメリットとなっている。
図2は本センターで開発されたレーザーアトムプローブの模式図とその写真を示している。最近の研究により、質量分解能がレーザー照射条件によって大きく変わることが分かってきた。当初用いた波長1030 nmの赤外光レーザーでは試料によっては質量分解能が十分に得られないことが分かった。これは長波長レーザーではフォノンを励起して試料温度が上昇し、その結果電界蒸発が起こるために、熱伝導の悪い試料で質量分解能が悪くなることが分かってきた。一方で波長330
nmの紫外光レーザーでは電子励起によるイオン化が起こるためか、質量分解能が著しく改善されることが分かった。レーザーアシスト電界蒸発を用いると、金属以外の多くの材料の3DAP解析が可能となるとが分かってきた。一般に吸収係数が増加する波長よりも短波長のレーザーを用いると高電気伝導性の材料もアトムプローブ分析が可能となることがわかった。この現象を用いて、現在我々は種々のセラミクス材料のアトムプローブ解析に成功している。


