FIM像解釈の基礎
FIM試料の先端は50 nm程度の曲率を持つ半球状の形になっている。前述のように試料形状は電界蒸発による自己制御によって決まる。結晶面の表面エネルギーに差があると、表面エネルギーの低い面の曲率半径は高い面にくらべて平坦になる傾向がある。また高温になればなるほど、このファセッテングが顕著になる。このように試料表面は理想的な半球状とならず曲率半径が結晶面によって若干異なってくる。したがって、像倍率も結晶面により異なる。このような試料表面の曲率半径は図8に示すように、おなじFIM像中の2つの指数面間の距離とその間の面の数から評価することができる。今、FIM像を観察して(011)極と(001)極の間に(011)面が何層あるかを数える。図8では(011)面が6原子層観察される。曲率半径と2つの面の間の角度には次のような関係が成り立つ
r=ndhkl/(1-cos theta)
この関係から、例えば図8で試料をタングステンとすると、 (011)極と(001)極の間で(011)面が6枚観察されるので、r=6×0.224/(1-cos45?)=4.5
nmということになる。

図1 FIM像からの試料半径の求め方
様々な試料のFIM像の実例を示して、実際の金属材料がどのように観察されるかの理解の一助としたい。図9(a)は結晶粒界を含むタングステンのHeイオン像である。このように高融点金属では個々の原子を分解できるような高い質のFIM像が得られる。さらに結晶粒界を隔てて2つの結晶方位のFIM像が観察される。粒界部分は原子が完全に接触して見える部分と、暗く像が抜けている部分がみられる。後者はこの部分で試料表面に凹部があるためと考えられる。図9(b)は純アルミニウムのHeイオン像である。一般に低融点金属では面の表面エネルギーの差によって試料が大きくファセットするために、(001)面や(111)面での曲率半径が大きくなり、この部分での像が暗くなる。アルミニウム合金では(011)面の部分で試料が小さな曲率を持ち、像が最も明るく結像される。このような像のファセットはタングステンでも、試料観察温度を100 K程度に上げていくと観察される。図9(c)はGeを1at.%含むL12構造のNi3Al金属間化合物である。L12化合物の場合(011)面と(002)面はNiAl面とNi面の交互の積層になっているが、図9(c)にもみられるように、NiAl面はNi面に比べて暗く観察される。また電界蒸発強度の高いGe原子が(011)面のテラスに残って突き出しているためにこれらの原子4個が明るく観察されている。図9(d)は時効処理したCr-20Fe合金で、Feのナノ析出物がCr母層中に析出している。FeはCrよりも蒸発電界が高いために、Fe析出物の部分が試料表面で突き出し、その結果、Fe析出物が母相に比べて明るく観察されている。析出物の蒸発電界が低い場合には全く逆のコントラストが現れる。図9(e)がその一例で、Al母相中に析出したAl3Li (?相)はLiの蒸発強度が低いために析出物のところで凹み、そのため析出物は母相に対して暗く観察される。図9(f)はSm(Co0.72Fe0.20Cu0.055Zr0.025)7.5焼結磁石のNeイオン像である。この試料にはSm2Co17母相と、相分解によって母相をセル状に囲むように形成されたSmCo5セル境界相、c軸に板状に析出するZ相の3相が存在している。明るく観察されているのが母相で、暗く観察されているのがセル境界相である。また試料の長手方向に垂直に析出している板状試料は、特に明るいコントラストをもったリングとして観察されている。このようなFIM像を得てから、原子をイオン化させてアトムプローブ分析を行うことにより、ここで観察されているようなナノ相の組成分析を行うことができる。

図2 さまざまなFIM像。(a)タングステンの結晶粒界、(b) アルミニウムのHeイオン、(c) Geを含むNi3AlのNeイオン像、(d) Feの析出したCr-20at.%Fe合金のNe像、(e) Al3Liの析出したAl-6at.%Li合金、(f) Sm2Co17母相中に析出したSmCo5セル境界相とc軸に平行な板状Z相を含むSm(Co0.72Fe0.20Cu0.055Zr0.025)7.5焼結磁石のNeイオン像。